オペレーション・ツイスト
operation twist(オペレーション・ツイスト)
オペレーション・ツイスト
オペレーション・ツイストは、中央銀行が、長期証券の買いオペ(あるいは売りオペ)と短期証券の売りオペ(あるいは買いオペ)を同時に行う公開市場操作によって、通貨供給量を一定に保ったまま、「長期の金利」と「短期の金利」を互いに反対方向へと動かす、という金融政策の手法です。
【どんな仕組みなの?】
たとえば、金融緩和政策として長期金利を下げたい場合には、中央銀行は、長期国債を購入し、かわりに保有する短期国債を売却します。
長期国債を買うと、長期国債が市場から吸収されて、長期の資金が市場に放出されます。すると、長期の債券価格が上昇し、長期の市場金利が下がります。
同時に、短期国債を売ると、短期国債が市場に放出されて、短期の資金が市場から吸収されます。すると、短期の債券価格が下落し、短期の市場金利が上がります。
長期の資金を市場に放出して、同時に短期の資金を市場から吸収するため、通貨供給量を一定に保つことができます。
【米国で採用されたの?】
オペレーション・ツイストは、長期金利を押し下げる金融緩和政策として、米国で1961年に採用されました。
通常の金融緩和政策では、長期国債の買い入れにより、長期金利を低下させますが、通貨供給量が増えるため、インフレが懸念されます。
一方、オペレーション・ツイストでは、長期金利を低下させると同時に、短期金利を上昇させます。
長期金利を押し下げる目的は、企業の借り入れ(投資)や個人の住宅・車購入などを促すことにあります。狙いは、投資需要を増やすことによる、景気回復です。
一方、短期金利を押し上げる目的は、投機資金の借り入れを抑えることにあります。狙いは、海外への資本流出を抑制することです。ドルが売られることによる、通貨安(ドル安)に伴うインフレ抑制です。
つまり、オペレーション・ツイストは、通貨供給量を変えずに、長期金利の押し下げによる「景気回復」と、短期金利の押し上げによる「インフレ抑制」という2重の効果を狙う手法です。
【効果はあったの?】
オペレーション・ツイストは、「長期の金利」と「短期の金利」を互いに反対方向へと動かす手法です。
しかし、現実には、長期債券市場と短期債券市場は互いに連動しているため、オペレーション・ツイストにどの程度の効果があるかはわかっておらず、この政策は1965年に取止めになりました。
【長期的な視点からみた効果】
長期的な視点からみると、オペレーション・ツイストは「無効」と考えられます。
その理由は、長期金利を下げて、同時に短期金利を上げる操作を続けると、やがて金利差がなくなるからです。
銀行の収益は、長短金利の利鞘(売買の差額として得た利益)です。利鞘がなくなれば、銀行は、リスクのある貸出業務を行わなくなります。銀行が貸出業務を行わなくなると、企業は銀行からの資金供給が受けられなくなります。企業は新規融資を断られたり、融資の継続を打ち切られたりします。いわゆる「貸し渋り」や「貸し剥がし」と呼ばれる現象が起こります。すると、経済活動(取引)に必要なお金が行き渡らなくなり、景気は悪化します。
このような理由から、オペレーション・ツイストは、長期的な視点からみると無効だと考えられるのです。
《 オペレーション・ツイストの効果 》
【米国の経済動向】
サブプライム問題を発端に、米国経済は低迷を続けています。
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、2008年11月以降、QE1、QE2と呼ばれる量的緩和政策を実施しました。
紙幣を刷って証券を買うことで市場に貨幣を供給したため、FRBのバランスシートは拡大しました。しかし、貨幣量が増えすぎると、景気が過熱して物価が継続的に上がっていくインフレを引き起こしてしまいます。
2011年8月5日には、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)が米国の長期国債の格付けを最上位の「AAA」から「AA+」に1段階引き下げたと発表し、世界同時株安を引き起こしました。(日経平均株価の終値は9299円88銭)
FRBは、2011年8月の連邦公開市場委員会(FOMC)で、少なくとも2013年半ばまでは、政策金利を異例の低水準で維持する公算が大きい、としています。
また、米失業率も依然として高い状況が続いています。
米失業率(%)
こうした事態に、市場からは、量的緩和政策の第3弾である「QE3」の実施を求められました。しかし、さらなる量的緩和に踏み込むと、財政をますます悪化させる懸念があります。
米国の実質金利はゼロ%水準(名目金利約2%-インフレ率約2%=ほぼ0%)にあり、「流動性のわな」から、金融緩和政策の効果を疑問視する声も上がりました。
流動性のわな
利子率がほとんどゼロ近くまで下落すると、貨幣保有のコスト(もらえたはずの利息)もゼロになります。すると、人々は資産を債券ではなく、すべて貨幣で保有しようとするので、投機的需要が無限に大きくなります。この現象を「流動性のわな」といいます。
この状態で貨幣供給量を増やしても、投機的需要が増えるだけで、金利水準は低下しません。
こうした状況に陥っているときには、貨幣供給量を増やして金利を下げる金融政策は無効となります。
【米国でオペレーション・ツイストを再導入】
このような状況の中、2011年9月21日、FRBはFOMC後の声明で、「長期国債を4000億ドル購入し、同額の短期国債を売却する」と発表し、オペレーション・ツイストを導入しました。
オペレーション・ツイストでは、FRBが保有する短期国債を売って長期国債に買い替えるため、バランスシートの拡大を避けることができます。
しかし、オペレーション・ツイストによって、米経済が大きく回復するとは見られておらず、追加の金融緩和を実施する可能性も示唆されています。
※FRBのバーナンキ議長は、金融政策が限界にあり、財政政策の出動が必要であると述べています。(バーナンキ議長の証言(2011年10月3日議会の公聴会)より)
【オペレーション・ツイストを延長】
2012年6月21日、FRB(米連邦準備理事会)は、FOMC(連邦公開市場委員会)で、6月末に終了予定だったオペレーションツイストを2012 年末まで延長することを決めました。
一方、QE3(量的緩和第3弾)の発動は見送られました。
ロイターによると、QE3が発動されない理由として、以下の3つをあげています。
①QE1、QE2以上の効果はない
②時間をかければ、アメリカ経済は自力で回復する可能性もある
③FRBは金融政策の観点からは充分やってきたので、他の選択肢に焦点を絞るべきだ
今後の動向が注目されています。
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