ギリシャ債務危機(ぎりしゃさいむきき)
Greek debt crisis(グリーク・デット・クライシス)
ギリシャ債務危機
(1)ギリシゃ債務危機ってなあに?
ギリシゃ債務危機とは、ギリシャ国債の信用リスクが高まった(信用度が下がった)ことです。
信用リスクは、お金を貸した相手(債券の投資先や貸付先)が、元本や利息をきちんと返してくれるかどうか、という信用力に関するリスクです。
ギリシャは、世界に広がった信用不安を払拭できるのでしょうか。
【ギリシャがユーロ参加国に】
ギリシャは日本の3分の1ほどの国土をもつ、人口約1113万人の国です。1981年1月1日に、欧州連合(EU)の前身である欧州共同体(EC)に加盟しました。
ギリシャは、1999年1月のユーロ導入国決定段階では、参加基準を満たしていませんでした。しかし、その後の政策努力により基準達成が認められ、2001年1月1日に12番目のユーロ参加国となりました。
【巨大債務の発覚】
2009年10月5日、ギリシャで5年ぶりに政権交代が行われました。ヨルゴス・パパンドレウ氏の「全ギリシャ社会主義運動(PASOK:パソック)」が、コスタス・カラマンリス首相の「新民主主義党(ND:ネア・デモクラティーア)」に勝利したのです。
この政権交代が、ギリシャの財政赤字問題を明らかにしました。
これまでの旧政権の調査では、ギリシャの財政赤字は国内総生産(GDP)比5%と過小評価していました。しかし、パパンドレウ首相率いる新政権の調査で、これが12.7%であることがわかったのです。
ギリシャ財政赤字(GDP比) 旧政権5% 新政権12.7%
【守られなかったルール】
ユーロ参加国は、「財政赤字額GDP比3%以内」、「政府債務残高GDP比60%以内」という財政規律を順守する義務を負います。
財政赤字とは、国の経済活動における赤字のことです。国の支出である歳出が、国民から集めた税金で賄えない場合には財政は赤字となり、これを補うために、公債(国債、政府関係機関債、地方債)を発行します。
一方、政府債務残高(公的債務残高)とは、財政赤字で発行した公債の残高、つまり国の借金の残高です。
歳入とは、国の収入のことで、国民から集めた税金収入と公債収入(国の借金)からなります。
歳出とは、国の支出のことで、公共事業や外交などに使われる費用のことです。
財政規律は、次の表のようになっています。 これは、ユーロ参加国に課せられる財政基準です。ギリシャは、どちらもクリアできていません。
下表をみてください。多くの参加国がGDP比3%を超える財政赤字を計上しています。ギリシャのみならず、スペインやポルトガルも巨額の財政赤字を抱えていることがわかります。
一般政府財政収支(対名目GDP比) (単位%)
参考:総務省HP「世界の統計2011」
※2010年11月15日、欧州連合(EU)は、ギリシャの「2009年財政赤字額GDP比」を15.4%に修正したと発表しました。
【高まるギリシャの信用不安】
2010年1月12日、欧州委員会(欧州連合(EU)の行政執行機関)は、「ギリシャの経済統計は信用できない」と指摘しました。ギリシャの財政悪化が表面化したことで、市場は大混乱しました。
この頃、2009年11月25日に起きたドバイ・ショックの衝撃で、市場はソブリンリスク(国の信用リスク)に敏感になっていました。そのため、ギリシャの債務危機は、ユーロ圏全体を巻き込む大きな不安へと拡大していきました。
ドバイ・ショックとは、2009年11月25日に、ドバイ政府が政府系持株会社ドバイ・ワールドと関連の不動産会社ナキールの債務返済延期要請を発表したことにより、世界の株式相場が急落した現象のことです。ドバイ信用不安、ドバイ問題ともいいます。
(2)巨大債務はどうして生まれたの?
【財政赤字拡大の原因:高すぎる生活水準】
ギリシャでは、年金制度も手厚く、給与伸び率も高いなど、国民の暮らしは非常に優遇されています。この高い生活水準が、財政赤字をさらに逼迫させています。
ドイツやフランスなど欧州諸国は、自分たちよりも優遇された生活を送るギリシャで起こった財政危機に、大きな不満を持っています。しかし、EUの金融機関もギリシャに多額の投資をしているため、見放すこともできません。
【通貨統合のひずみ:経済競争力の差】
ユーロ参加国(17カ国)の中には、ドイツのように経済競争力の高い国もあれば、ギリシャのように弱い国もあります。
通常であれば、財政が悪化した場合には、金利を変更する金融政策によって経済の安定を図ります。
しかし、ユーロ参加国の金融政策・為替操作は欧州中央銀行(ECB)が行うため、金利を変更することはできません。
貿易競争力の高いドイツも、逆に貿易競争力の弱いギリシャも、同じ金利ということになり、無理が生じます。
ユーロ圏(17カ国)は、自国の景気が悪化しても、金利政策を行うことはできません。
参考:ECBの政策金利
【こんなメリットも!】
欧州経済は、通貨統合による恩恵も受けています。経済競争力の弱い国も、ユーロを導入したことで、通貨は安定し、金利は低下しました。
物価は高くなりましたが、低金利でお金を借りることができるようになったので、消費が増大しました。
域内の貿易障壁が取り除かれたことで、欧州各国から輸入が増えて、ドイツは輸出大国へと急成長しました。
一方で、ドイツの金融機関もギリシャ国債をたくさん保有しています。
ドイツ経済にとっても、ギリシャの債務危機は、たいへん重要な問題です。
(3)ギリシャの信用不安は、どんな影響があるの?
【ギリシャへの影響】
ギリシャは巨額の財政赤字を抱えています。歳出を税収で賄えないのですから、足りない分は国債などを発行して借金する必要があります。しかし、巨大債務の発覚を受けて、格付け会社はギリシャの信用格付けを引き下げました。
格下げは、ギリシャの信用リスクが上がった(信用力が下がった)、という格付け機関の判断です。
ギリシャの信用度が下がると、国債が売られ、長期金利が上昇することが懸念されます。
長期金利の上昇は、借入金の金利上昇を招き、政府の国債利払い、企業の借入金返済、個人の住宅ローン返済などの負担が増大する可能性があります。
また、信用力が下がったギリシャ政府は、資金調達がしにくくなります。政府の財政が逼迫すれば、消費税増税や年金額引き下げなど、国民の暮らしに大きな影響を及ぼしてしまいます。
参考:ギリシャの信用格付け
※ソブリン格付けとは、国の信用リスク(国債を償還できるか)を判断する指標です。
※SD(選択的債務不履行)
【世界への影響】
ギリシャ国債は、ドイツやフランスなどEU加盟国の金融機関がたくさん保有しています。
もし、ギリシャが破綻すると、ギリシャ国債は不良債権化(貸出先の破たんなどで、回収困難になる可能性が高い貸出金)してしまい、巨額の損失計上を余儀なくされます。
すると、金融機関が経営悪化に陥る事態になり、信用不安は世界中のあちこちに飛び火してしまうことが懸念されます。
【ギリシャのほかにも、財政不安な国が!】
ユーロ圏内には、ギリシャと同様に、財政赤字の国がたくさんあります。
なかでも、「ポルトガル、アイルランド、イタリア、スペイン」は、巨額の財政赤字を抱えており、ソブリンリスク(外国政府などの国債債務不履行リスク)が懸念されています。
これらの国は、国の頭文字をとってPIIGS(豚?)と揶揄されています。
PIIGS(ピーグス)とは、経済が危機的状態にあるとされる欧州の国の頭文字をとった侮蔑的な言葉で、ポルトガル(Portugal)、アイルランド(Ireland)、イタリア(Italy)、ギリシャ(Greece)、スペイン(Spain)の5カ国をあらわします。
※イタリアは経済が安定的であるとして除き、PIGS(ピッグス)という場合もあります。
最近では、EU主要国であるイギリスの財政悪化も報じられ、不安が高まっています。(イギリスはユーロ参加国ではありません。)
【資産査定(ストレステスト)】
2010年7月23日、欧州域内の金融機関(20カ国、91行)の健全性を調べる資産査定(ストレステスト)の結果が公表されました。
ストレステストは、ギリシャ発の信用不安を払拭し、市場の信頼を取り戻すことを目的に行われたもので、「銀行保有の国債価格が下落した場合」を想定し、金融機関の健全性を審査しました。
その結果、91行のうち、7行(ギリシャ1行、ドイツ1行、スペイン5行)が不合格となりました。
不足する資本額は、7行合計で35憶ユーロ(3950億円)です。
(4)どうしたら、ギリシャ危機は回避できるの?
欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)は、なんとかギリシャの債務危機を阻止しようと、支援策を検討しています。
しかし、ギリシャ危機を回避するには、EUやIMFの支援のもと、ギリシャ自身が覚悟をもって財政再建を行い、市場の信用を回復する必要があります。
ギリシャにとって、財政再建の道は相当厳しいものとなります。果たしてうまく成果が上がるのでしょうか。
【ギリシャへ支援】
2010年4月23日、ギリシャ政府はEUとIMFに正式に支援を要請しました。
EUとIMFは、2010年5月2日に3年間で総額1100億ユーロの金融支援を決定するなど、ギリシャ支援を打ち出しました。
※ソブリン格付けとは、国の信用リスク(国債を償還できるか)を判断する指標です。
【財政再建策】
ギリシャ政府は、支援の条件となる「財政再建策」を提出し、目標達成に向けて取り組み始めました。
増税(消費税率、アルコール税、たばこ税など)
年金即時凍結、公務員給与カットなど 財政赤字削減を目指す
支援を受けると、他国からの干渉を受け、厳しい財政再建策に取り組まなければいけません。
そのため、財政悪化が深刻化しても、“支援を受け入れたくない”というのが実情です。
【ギリシャ国民の反発】
この財政再建策に対して、市場ではある程度の評価が得られたものの、ギリシャ国民は厳しい財政再建策に猛反発し、連日のようにストライキや抗議デモが行われました。
これまで、年金制度も手厚く、給与伸び率も高いなど、優遇された生活を送ってきたギリシャ国民は、ギリシャ政府の掲げる厳しい赤字削減策を簡単に受け入れることができません。
石や火炎瓶を投げたり、銀行を襲撃したりと、暴動が激化して、ギリシャの社会不安が高まっています。
ギリシャは、財政再建が果たせるのでしょうか。
参考として、下表の「EU加盟国の主要指標」をみてください。
EUが高い失業率という問題点を抱えていることがわかります。
参考:EU加盟国の主要指標
参考:総務省HP「世界の統計2011」
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