日本・シンガポール新時代経済連携協定(にっぽんしんがぽーるしんじだいけいざいれんけいきょうてい)
The Japan-Singapore Economic Partnership Agreement(ザ・ジャパン-シンガポール・エコノミック・パートナーシップ・アグリーメント)
JSEPA
日本・シンガポール新時代経済連携協定
一般的なFTA枠を超え、幅広い分野での交流促進・経済的連携の強化を目的とする取り決め
2002年1月13日、日本の小泉首相は、シンガポールのゴー・チョクトン首相と会談し、自由貿易協定(FTA)を含む「日本シンガポール新時代経済連携協定」に署名しました。
≪自由貿易協定(FTA)≫
自由貿易協定(FTA:free trade agreement)とは、特定の複数国や地域において、関税を撤廃し、数量制限などの貿易障壁をなくすことで、自由な貿易を繁栄・発展させようという貿易上のルールのことをいいます。
FTAには、(1)貿易の自由化を促進できる、(2)諸制度を調整し合うことで、相手国との経済的な連携を強化できる、などのメリットがあります。しかし、自由競争が起こることにより、自国の競争力の弱い産業が打撃を受けるというデメリットもあります。
WTO(世界貿易機関)には、最恵国待遇というルールがあります。最恵国待遇とは、加盟国が特定の国に対して貿易上の優遇措置をとる場合、特定の国以外の加盟国に対しても優遇措置が適用されるというものです。
FTAは、協定を結んだ国の間だけで関税撤廃などの取り決めを行うため、WTOの最恵国待遇というルールには合致していません。しかし、WTOは無差別で自由な貿易を促進するための国際機関であるため、貿易の自由化促進に効果があるFTAを、最恵国待遇の例外として認めています。
FTAは、1990年代に締結が急増し、現在も年々増加傾向にあります。代表的なFTAには、北米自由貿易協定(NAFTA)や、東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州連合(EU)などがあります。
≪FTA締結への政策転換≫
日本は、これまで世界貿易機関(WTO)のルールに従い、多角的な貿易交渉を重視した通商政策を行ってきました。FTA締結は、特定の国・地域間の貿易を盛んにし、経済のブロック化を招くとして、どこの国ともFTAを結んでいませんでした。
しかし、WTOでは先進国と発展途上国との間で利害対立が起こり、多国間交渉は思うように進まなくなっています。また、多国間交渉は膨大な時間を必要とするため、短期間で交渉でき、効果も認められるFTAを結ぶ国が増えています。
このような状況から、世界の国々から孤立してしまう危機感を強く感じた日本政府は、FTA締結を積極的に進める方向に政策を転換し、まず最初にシンガポールとFTAを結ぶことになりました。
他にも、韓国、メキシコ、チリ、カナダなどともFTAを結ぶことを検討しています。
≪これまでの経緯≫
1999年12月8日の首脳会談で、日本(小渕首相)は、シンガポール(ゴー・チョクトン首相)から自由貿易協定(FTA)の締結を提案されたことを受けて、両国共同による研究を行うことに合意しました。ゴー首相による提案は、一般的なFTAの分野(モノの関税撤廃・自由化など)だけではなく、情報や技術、教育など幅広い分野での2国間協力も加えた、「新時代の自由貿易協定」と称される内容のものでした。
両国首脳の共同研究合意を受けて、両国の専門家による「共同検討会合」が結成され、FTAの諸方策(対象範囲や構成など)について検討が行われました。共同検討会合は、2000年3月から2000年9月までの間に5回行われ、2000年9月に最終報告書が公表されました。
2000年10月22日の首脳会談では、日本(森首相)とシンガポール(ゴー・チョクトン首相)は、FTA締結の正式交渉を2001年1月に開始し、2001年12月末までに終了することを決定しました。
正式交渉は4回行われ、2001年10月20日、日本(小泉首相)とシンガポール(ゴー・チョクトン首相)より、交渉終了の共同声明が発表されました。
≪協定の内容≫
シンガポールと結ぶFTAは、一般的な自由貿易協定の枠を超え、幅広い分野での交流促進や、経済的連携の強化を目的としています。
≪FTA締結の問題点:農林水産物≫
FTA締結により、日本からシンガポールに輸出する場合、全品目に対する関税が撤廃となりました。しかし、シンガポールから日本に輸入される場合、3800品目の関税が新たに撤廃されましたが、一部の農林水産物(約2000品目)の関税は据え置きとなりました。結果として、全体の94%の品目に対する関税が撤廃となりました。
※WTOのルールでは、FTAでは原則として全品目の関税を撤廃するとしています。
農林水産物の関税が据え置きになったのは、農林水産族議員や、農水省が抵抗・反対したためです。FTAで関税が撤廃されると、相手国の農林水産物を関税ゼロで輸入することになります。輸入品の価格低下により、国内産業が打撃を受けるため、国内の反発が高まりました。
幸いなことに、シンガポールは都市国家で、日本に輸入される農林水産物が少なかったため、交渉が成立しました。しかし、韓国やメキシコを相手にFTAを結ぶ場合には、農林水産物が例外として認められるのは難しいと思われます。
日本がFTAを締結するのに、農林水産物が大きな問題となっています。日本は、国際競争力が低いという理由から、農林水産業を保護してきました。しかし、日本経済を活性化させるためにも、農林水産物の市場を開放し、自由化を進めることで国内産業の体力強化をはかり、国際競争力を高めることが必要です。
≪世界の動き:ASEAN(アセアン)との関係強化≫
2001年11月、中国とASEAN(東南アジア諸国連合)は、10年以内にFTAを締結することで合意しました。また、中国は、2001年12月11日にWTOの143番目の加盟国となるなど、世界の国々との結びつきを強める動きを見せています。
日本の小泉首相は、FTA締結に対して、強い意欲を表しています。日本は、これまでどこの国ともFTAを結んでいませんでしたが、初めてのFTAをシンガポールと結びました。また、ASEANとの関係を強化したい意向も表明しています。
◆将来の経済統合の形態
中国とASEAN、日本とASEAN、日本と韓国がFTAを締結すると、東アジアが経済統合される可能性があると予測されています。
その場合、世界には、現在の欧州連合(EU)、米州自由貿易圏(FTAA)、東アジアの経済圏という3つの大きな経済圏ができることになります。
◆欧州連合(EU)
現在15カ国が加盟していますが、すでに12カ国が加盟申請するなど、拡大の動きが見られます。
◆米州自由貿易圏(FTAA)
キューバを除く南北アメリカの34カ国が加盟し、2005年に発足する予定です。北米自由貿易ブロック(NAFTA)、中米共同市場(MCCA)、カリブ共同体(Caricom)、アンデス共同体(CAN)、南米南部共同市場(Mercosul)の5つの経済ブロックが含まれます。
◆東南アジア諸国連合(ASEAN)
東南アジアの地域協力機構。10カ国が加盟しています。
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