第1章 民主政治の基本原理
3.国家の3要素
2022年3月 有馬秀次 監修
(1)国家
(こっか)
国家とは、国民の社会秩序をつくり、対外的には国家の独立性を主張する社会集団です。
国家は、一定の地域の住民に対して、排他的な主権を持つ政治組織です。
ちなみに、世界には196の国があります(2022年3月時点)。
【国家の三要素】
国家が成立するには、主権、領域、国民 という3つの要素が必要です。これを国家の三要素といいます。
国家の三要素を提唱したのは、ドイツの法学者ゲオルグ・イェリネック(Georg Jellinek、1851-1911)です。
【日本の誕生】
ちなみに、日本という国が誕生したのは、神武天皇が初代天皇として即位した年で、紀元前660年とされています。
したがって、2022年現在、日本は建国2682年となります。
(2)主権
(しゅけん)
主権とは、国家が持つ最高の権力のことです。国家主権ともいいます。
主権という言葉は、フランスの政治思想家ジャン=ボーダン(Jean Bodin、1530-1596)が主著『国家論』(1576年)のなかで、初めて使いました。
主権をもつ者(国家を支配する者)を主権者といいます。
主権をもつ国を主権国家といいます。
【主権の2つの意味】
主権とは、国民や国土を支配する権利のことです。これを統治権といいます。
主権(統治権)には、対外主権と対内主権という2つの意味があります。
対外主権とは、他国からの干渉や制約を受けず、独自の意思決定を行う権利のことです。独立権ともいいます。
対内主権とは、国政の最終決定を行う権利のことです。
(3)領域
(りょういき)
領域とは、国家の主権の及ぶ範囲のことです。
【領域の3つの区分】
領域は、領土、領海、領空からなります。
【領域の取得】
新たな領域を取得する方法には、先占、割譲、征服、併合などがあります。
先占(せんせん)とは、どの国にも領有されていない無主地(むしゅち)を自国の領土にすることです。
割譲(かつじょう)とは、国家間の合意によって領土の一部を譲渡することです。戦争による譲渡と、平和的な外交交渉による譲渡(贈与、交換、売買など)があります。
征服とは、ある国家が武力によって他の国家を服従させ、その領域を自国の領土にすることです。
併合とは、国家間の合意によって領土の全部を譲渡することです。併合された国は消滅します。
(4)領土
(りょうど)
領土とは、国家の主権の及ぶ範囲の陸地のことです。
一般的には、陸地の部分だけではなく、領海と領空も含めた領域のことを指します。
【日本の領土:島嶼の数】
国土交通省によると、日本は6852の島嶼で構成されています(2012年4月1日現在)。
島嶼(とうしょ)とは、大小の島々のことです。「島」には大きな島、「嶼」には小さな島という意味があります。
本州、北海道、四国、九州、沖縄本島のほか、6847の離島(うち、有人島418、無人島6429)があります。
出典:離島の現状 国土交通省 国土政策局 離島振興課 平成24年10月 (https://www.mlit.go.jp/common/001293260.pdf)
【日本の領土:面積】
外務省によると、日本の領土の総面積は、約37万8000平方キロメートルです。
世界で面積の大きい国は、1位がロシア、2位がカナダ、3位がアメリカ、4位が中国、5位がブラジルで、日本は61位となっています。
1位 | ロシア | 約1710万 |
---|---|---|
2位 | カナダ | 約998万 |
3位 | アメリカ | 約963万 |
4位 | 中国 | 約960万 |
5位 | ブラジル | 約851万 |
61位 | 日本 | 約38万 |
(単位:平方キロメートル)
出典:外務省ホームページ(https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/sp/ranking/men_o.html)をもとに作成
(5)領海
(りょうかい)
領海とは、基線から12海里(約22.2km)以内の水域のことです。領海は、領域の一部であり、沿岸国の主権が及ぶ水域です。
ちなみに、基線とは、通常は、低潮時の海面と陸地との交わる線である低潮線のことです。
【接続水域】
接続水域とは、領海の基線から24海里(約44km)以内の水域のことです。
接続水域は領海ではありませんが、沿岸国の法令によって、規制や処罰などを行うことができる水域です。
【排他的経済水域(EEZ)】
排他的経済水域とは、領海の基線から200海里(約370km)以内の水域のことです。英語では、exclusive economic zoneといい、略して、EEZ(イーイーゼット)と呼んでいます。
排他的経済水域は領海ではありませんが、漁業や調査などの活動を行うことができる水域です。
ちなみに、日本の排他的経済水域の面積は、領海も含めると約447万平方キロメートルで、世界第6位です。これは、日本の領土面積(約37.8万平方キロメートル)の約12倍になります。
【公海】
公海とは、国連海洋法条約において、「内水・領海・排他的経済水域・群島水域を除いた海洋」と定められた水域のことです。
公海には、公海自由の原則が適用されており、すべての国が自由に使用することができます。
公海自由の原則を提唱したのは、オランダの法学者フーゴ・グロティウス(Hugo Grotius、1583-1645)です。
大航海時代の1494年、スペインとポルトガルは世界の大陸と海洋を二分して支配するための条約を結びました。これをトルデシリャス条約といいます。これに強く反対したのが英国とオランダです。グロティウスは、1609年に『自由海論』を刊行し、海洋の自由を主張しました。グロティウスは、「国際法の父」と呼ばれています。
(6)領空
(りょうくう)
領空とは、領土と領海(基線から12海里)の上空のことです。領空は、領域の一部であり、その国の主権が及ぶ領域です。
【領空侵犯】
他国が許可なく領空に立ち入ることは、領空侵犯という違法行為となります。
他国の航空機が、許可なく領空を飛行することはできません。
【上空の範囲】
領空における上空の範囲は、垂直方向に無限ではありません。
1967年の宇宙条約で、「宇宙空間を国家が領有することを認めない」と規定しています。
【公空】
公海の上空など、どの国家にも領有されていない上空の空間のことを公空といいます。
ところで、公空にはまだ明確な高度の定義がありません。一般に、宇宙は高度100km以上とされています。
出典:国際航空連盟(Federation Aeronautique Internationale:FAI)の定義
(7)国民
(こくみん)
国民とは、国家を構成する人々のことです。
国家が成立するのに必要な国家の三要素(主権、領域、国民)の1つです。
国民は、その国の国籍を持つ者のことで、民族による分類とは関係ありません。
【日本国憲法】
日本国憲法には、「第10条日本国民たる要件は、法律でこれを定める。」と記されています。法律とは、国籍法のことです。
国籍法とは、「日本国民たる要件」について定められた法律で、全20条で成り立っています。
簡単にまとめると、「父または母が日本国民である人」、「日本で生まれた人」、「法務大臣の許可を得て帰化した人」を日本国民とする、と定められています(2022年3月時点)。
【日本の人口】
ある国または地域に住む人の総数のことを人口といいます。
日本の人口は、2022年2月1日現在、約1億2534万人です。
出典:総務省統計局ホームページ(https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html)