すぐわかる!政治・経済用語集【経済編】

 

 

第1章 民主政治の基本原理

1.政治と社会

2022年3月 有馬秀次 監修

(1)政治

(せいじ)

政治

政治とは、理想的な社会を実現するために、国や社会集団に統合を働きかける手法のことです。
【国家現象説と集団現象説】
政治の意味は、政治を“国家にみられる特有な現象”と考える政治の国家現象説と、“さまざまな社会集団にみられる現象”と考える政治の集団現象説に分けられます。
①政治の国家現象説:国をおさめること
政治の国家現象説とは、主権者が、一国の領土や人民を統治する手法のことです。
国の権力(立法、司法、行政)を通じて、国民の共同生活(権利と自由)を守る役割を果たします。
②政治の集団現象説:社会集団を調整すること
政治の集団現象説とは、人々の利害や意見の相違によって生じる、さまざまな対立を調整する手法のことです。
社会秩序を維持し、集団全体としての統合をはかる役割を果たします。
【政治の語源】
政治(politics ポリティックス)という用語は、古代ギリシアの都市国家ポリス(polis)が語源となっています。ポリス(polis)を由来とする言葉には、ほかに、警察(police ポリス)、政策(policy ポリシー)などがあります。

(2)社会

(しゃかい)

社会

社会とは、人々の集まりや、生活における共同体の総称のことです。
人間は生まれてから、家族や学校、会社、国家など、いくつもの集まりに参加しながら生活しています。
このように、人々が集まって形成された共同体や、集まった人々、その人々の結びつきを社会といいます。
また、複数の人々の集まりのことを集団といいます。
【社会秩序】
社会秩序とは、社会における人々の生活が、一定の統制(決まりに従って制御すること)によって、安定しておくれる状態のことです。
社会秩序は、人々が自発的または自然的に受け入れるものと、強制力を伴うものによって、成立します。
【社会の揉め事】
社会では、すべての人が平等であることは難しく、また価値観の相違などから、対立や紛争が起こります。
対立とは、反対の立場にある者が、互いに相手を認めず譲り合わないことです。
紛争とは、個人間や集団間、大きなものでは国家間などに生じる揉め事のことです。民族、宗教、文化、政治、経済などの違いから起こり、暴力や武力を伴うこともあります。
【政治の役割】
対立や紛争によって社会情勢が悪化すると、社会の秩序が乱れてしまいます。秩序とは、社会や集団が、理想的な状態を保つための決まりのことです。
対立や紛争をおさめ、理想的な社会を実現するためには、政治の力が必要です。政治は、社会秩序を維持し、集団全体としての統合をはかる役割を果たします。
逆に、社会の秩序が失われ、政治がまったく機能していない状態のことを無政府状態(アナーキー)といいます。
【社会という言葉の始まり】
社会という言葉を初めて使用したのは、福地桜痴(ふくちおうち、1841-1906、新聞記者、文学者)という人物です。福地桜痴は、1875(明治8)年1月14日の東京日日新聞に、society(ソサエティ)に対応する訳語として、社会という用語を採用しました。

(3)社会集団

(しゃかいしゅうだん)

社会集団

社会集団とは、人々が社会生活を送るためにつくる集団のことです。
【社会集団の類型】
社会集団を基礎的なタイプで分類したものを社会類型とか社会型といいます。
社会類型は、基本的に2つのタイプに分類されます。このように、全体を2つの部分に分けることを二分法といいます。
著名なものに、イギリスの社会学者ハーバート・スペンサーの軍事型社会産業型社会、ドイツの社会学者フェルディナント・テンニエスのゲマインシャフトゲゼルシャフト、アメリカの社会学者・政治学者ロバート・モリソン・マッキーバーのコミュニティアソシエーションなどがあります。
①スペンサーの軍事型社会と産業型社会
イギリスの社会学者ハーバート・スペンサー(1820-1903)は、社会集団を軍事型社会と産業型社会に分類しました。
軍事型社会とは、軍事的な活動が支配する原始的な社会です。人々の自由は制限され、社会(統治者)に服従を強いられます。強制的な関係を伴う社会集団です。
産業型社会とは、商業的な活動が支配する近代的な社会です。人々の自由は制限されず、平等が求められます。自発的な関係を伴う社会集団です。
スペンサーは、社会は軍事型社会から産業型社会へ変化すると考えました。
②テンニエスのゲマインシャフトとゲゼルシャフト
ドイツの社会学者フェルディナント・テンニエス(1855-1936)は、社会集団をゲマインシャフトとゲゼルシャフトに分類しました。
ゲマインシャフトとは、血縁(血のつながり)、地縁(住む土地のつながり)、精神的・感情的なつながりによって生まれた集団のことで、共同社会ともいいます。家族や村落などがあります。
ゲゼルシャフトとは、人々が目的や利益を達成するために結束する集団のことで、利益社会ともいいます。都市や国家、会社などがあります。
テンニエスは、社会はゲマインシャフト(共同社会)からゲゼルシャフト(利益社会)へ変化すると考えました。
③マッキーバーのコミュニティとアソシエーション
アメリカの社会学者、政治学者ロバート・モリソン・マッキーバー(1882-1970)は、社会集団をコミュニティとアソシエーションに分類しました。
コミュニティとは、同じ地域に居住する人々が、伝統、風俗、習慣など共通の社会観念をもつ共同体のことです。都市や村落などがあります。
アソシエーションとは、同じ目的や関心をもつ人々が、それを達成するためにつくった集団のことです。学校や教会、会社などがあります。

(4)人間はポリス的(社会的、政治的)動物である

(にんげんはぽりすてきどうぶつである)

人間はポリス的(社会的、政治的)動物である

人間は絶えず、社会集団の中で生活しています。これを古代ギリシャの哲学者アリストテレス(前384- 前322)は、著書『政治学』で、「人間はポリス動物である」 と述べました。
ポリスとは、古代ギリシアの都市国家のことです。前10~8世紀頃、ギリシア本土、小アジア西岸、エーゲ海の島々に、複数の共同体が形成されました。これがポリス(都市国家、国家共同体)です。代表的なポリスは、アテナイ(アテネ)スパルタです。
【言葉の解釈】
このポリスを「国家共同体」と見るか、「社会・政治」と意味を広げるかによって、さまざまな解釈が生まれました。
アリストテレスは、ポリスに「最高善を目指す国家共同体」という意味を見出しました。
このポリスを社会に置き換えれば、「人間は社会的動物である」と解釈できます。「人間は社会集団(ポリス) の中で生活する」という意味です。
同様に、ポリスを政治に置き換えると、「人間は政治的動物である」と解釈できます。
ただし、「これらは誤りである」とする反論があります。
以下は、その引用です。

 

*****引用*****
政治(Politics)本文でもふれたように、「政治」という言葉には、ポリス特有の社会のあり方が色濃く反映されている。ポリスはしばしば「政治的共同体(ポリティケー・コイノーニア)と言い換えられたが、あくまで平等な市民間の関係を指し、主人による奴隷の支配や、家長による家族の支配とは区別されていた。また後にアリストテレスは人間を「ポリス的動物(ゾーン・ポリティコン)」と呼んだが、神々や動物と違い、人間が言葉を使って共同の意思決定を行うことを強調したものであった。にもかかわらず、このような「政治」の合意はやがて曖昧になり、今日ではもっぱら人間集団、とくに国家や国家間における権力の配分やそれをめぐる争い一般を指すものとして理解されることが多い。とはいえ現代においても、政治思想家のハンナ・アーレントは再び「政治」の原意にこだわり、人間の複数性に対応する人間の活動として政治を再定義している。
宇野 重規(うの しげき)著 『西洋政治思想史』 (有斐閣アルマ、2013、P.4)より引用

(5)社会を構成するサブシステム

(しゃかいをこうせいするさぶしすてむ)

社会を構成するサブシステム

社会(集団)において、人々は、政治経済によって深く結びついています。
アメリカの社会学者タルコット・パーソンズ(1902- 1979)は、政治と経済のことを「社会を構成するサブシステム」と位置付けました。
政治は、人々の利害や対立を調整し、 集団全体としての統合をはかる役割を果たします。
一方、経済は、生活に必要な財やサービスを企業が生産し、 家計がそれを消費することで、 人々の暮らしをより豊かにする役割を果たします。

(6)確認問題

問題1
理想的な社会を実現するために、国や社会集団に統合を働きかける手法のことを(①政治、②経済)という。

①政治

問題2
人々の集まりや、生活における共同体の総称のことを(①政治、②社会)という。

②社会

問題3
社会類型には、スペンサーの「軍事型社会と産業型社会」、(①マッキーバー、②テンニエス)の「ゲマインシャフトとゲゼルシャフト」などがある。

②テンニエス

問題4
著書『政治学』で、「人間はポリス的動物である」 と述べたのは(①アリストテレス、②プラトン)である。

①アリストテレス

問題5
パーソンズは、政治と(①国民、②経済)を「社会を構成するサブシステム」と位置付けた。

②経済

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