特別講座 原油価格
講師:有馬秀次
1.原油ってなあに?
「原油」とは、油田(地下に石油が埋蔵されている地域)から採掘された、未処理の状態の石油のことです。
原油を精製すると、重油、軽油、灯油、ガソリン、ナフサ、潤滑油、アスファルトなどを作り出すことができます。これらを総称して「石油」といいます。
2.原油(石油)の単位
原油(石油)の単位には、「バレル」を使っています。バレルの語源は「樽」です。
昔、アメリカのペンシルバニア油田では、樽に原油(石油)を詰めて運んでいました。1つの樽で運べた分量が42ガロン(約159リットル)であったことから、
1バレル=42米国液量ガロン=158.987 294 928リットル
という単位が今日でも使われています。
※「バレル」の定義は、国や用途によって異なります。
※米国液量ガロン (U.S. fluid gallon:ユーエス・フルイド・ ガロン)
3.日本でも採れるの?
日本にも油田はあります。新潟県、秋田県、北海道の油田から、原油が採掘されています。
しかし、その採掘量は少なく、日本の原油自給率はわずか0.3%で、残りの99.7%は海外から輸入しています(2013年度)。
参考 : 資源エネルギー庁「エネルギー白書」
4.石油は大切な資源
日本で一番多く使われているエネルギー資源は「石油」です。
上表を見ると、私たちがいかに石油を利用しているかがわかります。
もしも石油がなくなったら、私たちの暮らしは成り立たなくなってしまいます。
5.石油がなくなる…?
石油は、大切な天然資源です。しかし、使い続ければ、いつかはなくなってしまいます。
確認されている回収可能な地下資源の量のことを「確認埋蔵量」、採掘できる年数を「可採年数」といいます。
可採年数は、確認埋蔵量をその年の石油生産量で除した値です。
参考 : 石油連盟「今日の石油産業2015」
参考 : 資源エネルギー庁「エネルギー白書」
石油資源がいつなくなってしまうのか…? という石油資源の枯渇問題ですが、新たな石油資源の発見や回収率の向上などから、2014年末の可採年数は増えています。
また、「非在来型石油」(オイルサンド、オイルシェール、オリノコタール)などの資源開発も進んだことから、国際エネルギー機関(IEA)は、石油系資源の残存年数を200年以上と見込んでいます(世界エネルギー見通し:2013年発表)。
しかし、年数が増えたといっても、半永久的に採掘できるわけではありません。石油資源が枯渇してしまう前に、さらなる資源開発や技術革新が必要です。
6.原油価格ってなあに?
「原油価格」とは、原油を取引するときの値段です。
原油(石油)は大切な資源ですが、投資対象としても注目されています。
世界で原油を扱う市場は、産地ごとに、大きく3つの市場に分かれています(原油は、産出される地域によって品質が異なります)。
※2016年1月の平均価格
なかでも、WTI原油先物価格は、原油価格の指標としてだけではなく、世界経済の動きを捉える経済指標として、とても注目されています。
7.原油価格の下落
原油価格が下落しています。近年では、2014年6月の平均価格1バレル=105.24ドルをピークに下がり続け、2016年1月には平均価格が1バレル=31.70ドルになりました。
原油価格は、どうして下落しているのでしょうか。
●中国経済の減速から世界経済が低迷し、需要が伸び悩んでいるため。
●米国の利上げにより、投資対象としての「原油」の魅力が薄れたため。
●米国の「シェール革命」によって、世界のエネルギー情勢が一変したため。
米国で、技術的に困難とされていたシェール層の開発が進み、シェールオイルやシェールガスが抽出できるようになりました。
これにより、世界のエネルギー情勢は一変し、米国は世界最大の石油・天然ガス生産国となりました。これを「シェール革命」といいます。
●米国の「シェールガス」に対抗するため、最大の産油国であるサウジアラビアが生産量の調整(減産)に反対したため。
【参考記事】
「ロシアのノバク・エネルギー相は28日、サウジアラビアが原油価格の下落に歯止めをかけるために、産油国各国が生産量をそれぞれ最大5%削減することを提案したことを明らかにした。……ノバク・エネルギー相の発言を受け、北海ブレント先物は一時8%急伸した。」
(2016/1/29、ロイター)
出典 : 世界経済のネタ帳
8.原油安の影響は?
原油価格が下がると、燃料費(飛行機、船、車)や、石油製品(プラスチック、合成繊維、合成ゴム、合成洗剤、塗料、医薬品など)の生産コストが安くなります。
生産コストが安くなると、企業の利益が増えます。すると、企業は価格競争(他社よりも価格を下げて販売数を増やし、より利益を増やす)を行うため、商品の価格(物価)が下がることが考えられます。
原油価格が下がると、日本の経済にはプラスに働きます。
しかし、原油価格が急落しすぎると、市場メカニズムがうまく機能しなくなり、日本の経済にはマイナスに働く可能性があります。
商品価格が下がりすぎると、企業の売上(取引額)は減りやすくなります。
なぜなら、商品価格の下落率に対して、需要(数量)の増加率が小さいからです。
例えば、商品価格が100円のとき、ある企業の需要が1000個だったとします。
商品価格が30円に急落しても、需要は急には増えません。仮に30%増しの1300個に需要が増えたとしても、売上高(取引額)は大きく減ってしまいます。
各企業の売上高が下がると、一国の利益も減ります。一国の利益(付加価値)の総合計であるGDP(最終生産物の総取引額)も減ってしまいます。
このように、価格の急落は、GDPを大きく押し下げてしまいます。
したがって、原油価格が下がる → 価格が下がる → GDPが減る と予測されます。