特別講座 信用取引
講師:有馬秀次
1.信用取引とは何か
信用取引とは、株式投資に必要な資金や株式を、証券会社から借りて行う株式取引のことをいいます。証券会社に一定の委託保証金(借りた資金や株式を返す保証に、証券会社に差し入れる担保)を差し入れるだけで、株式や金銭を持たずに株式売買を行うことができる取引です。
信用取引には、値上がりを期待して、資金を借りて株式を購入する空買い(からかい)と、値下がりを期待して、株式を借りて売却する空売り(からうり)があります。
実際に自己資金で株式を取引する現物取引に比べて、少ない資金で大きな取引ができます。
2.取引の仕組み
信用取引による株式の買いを「空買い(からかい)」、売りを「空売り(からうり)」と呼んでいます。
空買いとは、買付けに必要な資金を証券会社から借りて株を購入する方法です。期待どおりに値上がりすると、売却して利益が得られます。
一方、空売りとは、売付けに必要な株券を証券会社から借りて売却する方法です。期待どおりに値下がりすると、買い戻して利益が得られます。
空買いされた株式と、空売りによる売却代金は、取引が決済されるまで証券会社が預かることになっています。顧客の手元には、何も引き渡されません。
≪決済方法≫
信用取引で借りた資金や株券は、予め定められた期限(通常6ヶ月以内)に返済(決済)する約束になっています。この決済は、「差金決済」と「実物決済」のどちらかの方法で行われます。
差金決済とは、反対売買をして差額を受け渡す方法です。 一方、実物決済とは、証券会社から借りていた資金や株式をそのまま返済する方法です。 信用取引の決済は、通常、差金決済で行われます。
◆差金決済
差金決済とは、反対売買をして差額を受け渡す方法です。
空買いをしている場合には、担保となっている買付株券を売却します。空売りをしている場合には、担保となっている売却代金で株券を買い戻します。
この反対売買により発生する差損益を、顧客と証券会社の間で授受する方法が差金決済です。
空買いしていた銘柄が値上がりすると、顧客は差金を証券会社から受取ります。値下がりすれば、差金を証券会社へ支払います。
空売りしていた銘柄が値下がりすると、顧客は差金を証券会社から受取ります。値上がりすれば、差金を証券会社へ支払います。
◆実物決済
実物決済は、証券会社から借りていた資金や株式を、そのまま返済する方法です。実物決済のことを、現引き(げんびき)、現渡し(げんわたし)と呼んでいます。
現引きとは、空買いのために借りた買付代金相当の現金を証券会社に渡して、担保となっている買付株券を受け取ることをいいます。
現渡しとは、空売りのために借りた株券と同種同量の株券を証券会社に渡して、担保となっている売付代金を受け取ることをいいます。
3.信用取引のコストと収益
信用取引には、特有の費用がかかります。この費用は、買い方と売り方で異なっています。信用取引の採算を見る場合に、現物取引との違いにも注意が必要です。
≪買い方の場合≫
買い方には、(1)委託証拠金の調達コスト、(2)日歩(支払金利)、(3)信用管理費、(4)名義書換料、(5)委託手数料、(6)消費税、(7)決済益への課税等の費用がかかります。
一方、(8)逆日歩、(9)配当金相当額、(10)新株引受権価格、(11)決済益等が収入の要因として挙げられます。
買い方の費用
(1)委託証拠金の調達コスト
信用取引を行う際には、売り方も買い方も委託証拠金が必要です。委託証拠金を銀行から借りてくるとすると、その支払金利が資金の調達コストとなります。このコストは、証券会社へ払い込む費用ではないので無視しがちですが、取引の採算を考える際には重要な要因です。
(2)日歩(ひぶ)
株式の買い方は、株式の買い付けに必要な資金を証券会社から借りています。この借入資金に対する支払金利を日歩と呼んでいます。
(3)信用管理費
信用取引の建玉に対して、約定日から起算して1ヶ月目ごとに、買付株数または売付株数に対して証券会社が徴収する手数料です。1株につき10銭の手数料が必要です(但し、最低100円、最高1,000円)。
(4)名義書換料(権利処理手数料)
信用取引により株を買い付けている場合に、証券金融会社が顧客から預かっている株券の名義書換の手続きをする費用です。1単元あたり50円の手数料が必要です。
(5)委託手数料
差金決済で現物の株式を売買する場合、証券会社にその売買を委託しているので、手数料が必要です。決済を現引き(品受け)や現渡し(品渡し)で行う場合には、売買の委託がないので手数料はかかりません。
(6)消費税
名義書換手数料と委託手数料には、5%の消費税がかかります。
(7)決済益への課税
信用取引を決済して利益が出た場合には、譲渡益税として課税されます。課税方法として、源泉分離課税か申告分離課税のどちらかを選ぶことができます。
源泉分離課税は、売建玉の約定金額の5.25%をみなし利益として、そのみなし利益の20%に課税しています。したがって、譲渡益税は、売建玉の約定金額の1.05%(5.25%×20%)となります。
一方、申告分離課税は、実質的な利益の26%に課税するものです。申告分離課税は確定申告が必要で、証券会社から税務署に支払調書が提出されます。申告分離課税は、源泉分離課税より税率が高いのですが、他の取引の損益を通算したものに対して課税されるので、他で損失がでている場合は、納税額を少なくできるのです。
買い方の収入
(8)逆日歩
信用取引では、売り方に対する貸株注文が買い方に対する融資を上回ると、売方に貸し付ける株券が不足するため、証券金融会社は、貸株市場等から株式を借りてきます。この時の品貸料は、売り方全員から徴収され、証券金融会社と買い方(株券の貸し手)全員に支払うことになります。したがって、逆日歩は、買い方には収入となります。ただし、逆日歩は、常時発生する収入ではありません。
(9)配当金相当額
買い方の保有する株式は、証券金融会社が預かっています。買付株式に配当が支払われると、配当金相当額を受け取ることができます。
(10)新株引受権価格
株式分割などにより新株引受権が与えられる場合は、買建単価を引き下げる形で還元されます。
(11)決済益
信用取引を反対売買により決済した場合に生じる利益です。株式が期待どおりに値上がりした場合に発生する利益です。信用取引から期待される本来の収入です。
≪売り方の場合≫
売り方の費用には、(1)委託証拠金の調達費用、(3)信用管理費、(5)委託手数料、(6)消費税、(7)決済益の課税、(12)逆日歩、(13)貸借取引貸株料、(14)配当相当額支払、(15)新株引受に対する費用負担 などがあります。
これに対する収入には、(16)日歩、(17)決済益 などがあります。
※(1)、(3)、(5)、(6)、(7)は、買い方の費用と共通です。
売り方の費用
(12)逆日歩
信用取引では、売り方に対する貸株注文が買い方に対する融資を上回ると、証券金融会社が外部から株式を借りてきます。この時の品貸料は、売り方全員から徴収され、証券金融会社と買い方(株券の貸し手)全員に支払うことになります。ただし、常時、発生する費用ではありません。
(13)貸借取引貸株料
空売り規制の一環として、2002年5月7日から導入された、売り方の貸株に対する手数料です。逆日歩と異なり、買い方が受け取れるものではありません。
(14)配当相当額支払
買い方の株式に配当が支払われる場合、売り方が配当金相当額を支払います。
(15)新株引受に対する費用負担
株式分割などで買い方に新株引受の権利が生じた場合、売り方が負担することになっています。
売建単価を引下げることで調整しています。
売り方の収入
(16)日歩
日歩(融資残高>貸株残高)が発生している場合には、買い手から日歩を受け取れることになっていますが、現在は、0%に据え置かれています。
(17)決済益
信用取引を反対売買により決済した場合に生じる利益です。株式が期待どおりに値下がりした場合に発生する利益です。
信用取引の費用と収入は、上記の表のように要因がお互いに入りこんでいて複雑です。採算を考える場合には、表計算ソフトなどを使ってシュミレーションするとよいでしょう。
信用取引用語の補足説明 :委託保証金
委託保証金は、証券会社が取引の安全を図ることを目的に、顧客から預かっておくお金です。
顧客は、借りた資金や株式を返す保証として、売買約定日の翌々日の正午までに、証券会社に委託保証金を差し入れます。
委託保証金は、約定価額の約30%以上と決められています。これを、委託保証金率といいます。つまり、自己資金の約3倍の取引が可能です。300万円の委託保証金があれば、1000万円の株取引を行うことができます。
※信用取引により株式相場が過熱した場合には、抑制のための措置として、委託保証金率の引き上げが行われます。
委託保証金の最低額は30万円です。取引に必要な委託保証金(約定価額の約30%)が30万円未満の場合でも、30万円の証拠金が必要です。
委託保証金率および最低額を上回る部分については、委託保証金を引き出すことができます。
委託保証金の最低維持率は20%です。信用取引で評価損となり、委託保証金が当初の約定価額の20%を下回ると、追加保証金が必要になります。
≪追い証≫
信用取引で売買した銘柄の株価が変動して、担保(委託保証金)が不足すると、担保の追加が必要になります。これを「追加保証金」といい、一般的に「追い証(オイショウ)」と呼んでいます。
追加保証金は、損失発生日の翌々日の正午までに、証券会社に差し入れることになっています。期日までに追加保証金を差し入れないと、建玉や担保が処分されてしまいます。
≪代用有価証券≫
委託保証金は、現金のほかに、有価証券で代用することも可能です。これを代用有価証券といいます。
有価証券には、その種類により、それぞれ現金換算率(掛け目)が定められています。 たとえば、国債であれば時価の95%というように計算します。
代用有価証券が値下がりしたことで、委託保証金率が20%未満となった場合にも、追加保証金の差し入れが必要となります。
信用取引用語の補足説明 :日歩と逆日歩
日歩は、お金を借りるときの利息です。逆日歩は、株を借りるときの借り賃(品貸料)です。
≪日歩(ひぶ)≫
買い方は、取引に必要な資金を借りるため、金利を支払います。一方、売り方は、証券会社に預託してある株式の売付代金を、空買い注文の融資に充てることができるので、金利を受取れます。この金利を、「日歩」といいます。
≪逆日歩(ぎゃくひぶ)≫
売りの注文(貸株数)が買いの注文(融資)を上回ると、株が不足します。そのため証券会社は、証券金融会社から株を調達します。さらに証券金融会社内で株が不足した場合、証券金融会社は外部から株を調達します。このときに発生する株の調達費用(品貸料)を、「逆日歩」といいます。
逆日歩は、品貸料が発生した銘柄の売り方全員が負担します。一方、品貸料が発生した銘柄の買い方は、証券会社に預託してある自己保有株式を、空売り注文の貸し株に充てることができるので、売り方から逆日歩を受取れます。
◆補足
これまで、証券金融会社は貸株料を無料としていましたが、空売り規制の導入により、2002年5月7日約定分から貸借取引貸株料を徴収することになりました。しかし、これは逆日歩のように買い手に支払われるお金ではありません。
信用取引用語の補足説明 :権利処理
信用取引では、制度信用銘柄の買建玉または売建玉に、権利(新株引受権の付与、配当など)が発生した場合、買い方・売り方が不当な利益を得ることのないように、適正な処理を行います。これを権利処理といいます。
貸借銘柄の株主である証券金融会社が、株式の発行会社から権利を受け取り、権利処理価格を決定したうえで、証券会社を通して買い方・売り方に権利処理を行います。
※建玉(たてぎょく)とは、未決済の状態にある取引のことをいいます。
信用取引の顧客は、買付資金や売付株券を期限までに返済します。この返済がまだ済んでいない状態にある買付資金や売付株券のことを、建玉と呼んでいます。
≪新株引受けの場合≫
株式分割などで新株引受けの権利が発生した場合、この権利を売却処理し、金銭に換算します。
証券金融会社は、権利引受(権利の買取り)を希望する買い方からの申し込みを受け、その残りを競争入札方式で売却します。この落札価格により権利処理価格を決定し、売り方から徴収し、買い方に支払います。
買い方は、資金を借りて株式を購入し、その株式を所有しています。従って、権利を受取ります。株式を購入したときの価格から、権利処理価格を差し引く方法で処理します。
売り方は、売却している株式の配当が支払われると権利落ちとなり、株価は配当分だけ下がると考えられます。従って、権利処理価格を支払います。株式を売却したときの価格から、権利処理価格を差し引く方法で処理します。
≪配当の場合≫
配当金の権利が発生した場合、権利処理として、配当金相当額の受払いを行います。受払いは、税引き後の金額で行います。
証券金融会社は、発行会社から受け取った配当金と、売り方から徴収した配当金相当額を買い方に分配します。
買い方は、資金を借りて株式を購入し、その株式を所有しています。従って、配当を受取ります。
売り方は、株式を借りて売却しているため、株式を所有しておらず権利落ちとなります。従って、配当金相当額を支払います。
4.信用取引の種類と銘柄
信用取引は、大きく、(1)制度信用取引 (2)一般信用取引 (3)店頭登録銘柄の信用取引 に分けられます。
≪制度信用取引≫
上場内国株券のうち、証券取引所が選定した上場銘柄を対象とする信用取引です。この対象銘柄を、制度信用銘柄と呼んでいます。
制度信用取引は、証券取引所の規則により、銘柄、品貸料、弁済期限などが一律に決められている取引です。弁済期限は6ヶ月以内です。
証券会社は、制度信用取引に必要な資金や株式を、証券金融会社から調達しています。この証券会社と証券金融会社との間で行われる取引を「貸借取引」と呼んでいます。
制度信用銘柄のうち、一定の基準(上場株式数、売買高、企業業績など)を満たした銘柄を貸借銘柄といい、貸借銘柄以外の銘柄を非貸借銘柄といいます。
貸借銘柄は、証券金融会社から、資金と株券の調達が行える銘柄です。
非貸借銘柄は、証券金融会社から、資金の調達だけが行える銘柄です。株券は、証券会社が、証券金融会社を通さずに調達しなければなりません。
≪一般信用取引≫
制度信用銘柄以外の上場銘柄の信用取引です。これを、一般信用銘柄と呼んでいます。ただし、上場廃止基準に該当する銘柄は、対象外です。
一般信用取引は、顧客と証券会社との間で、金利、品貸料、弁済期限などの取引条件を自由に決めることができる取引です。証券会社は、一般信用取引に必要な資金や株式を、社内で調整(担保として預かっている資金や株式を充てる)、または貸株市場から調達します。証券金融会社からの調達は行いません。
≪店頭登録銘柄の信用取引≫
店頭登録銘柄を対象にした信用取引です。店頭登録銘柄とは、日本証券業協会が選定した銘柄です。店頭登録銘柄の信用取引は、金利、品貸料などの取引条件を自由に決めることができる取引です。ただし、弁済期限に関しては、日本証券業協会の規則により一律(3ヶ月以内または、6ヶ月以内)に決められています。
証券会社は、店頭登録銘柄の信用取引に必要な資金や株式を、社内で調整(担保として預かっている資金や株式を充てる)、または貸株市場から調達します。証券金融会社からの調達は行いません。
≪証券金融会社≫
証券金融会社は、制度信用取引において、証券会社への株式(有価証券)や資金の貸付けを主要業務とする会社です。全国に、日本証券金融、大阪証券金融、中部証券金融の3社があります。
≪貸株市場≫
株式を調達する市場のことを、貸株市場といいます。
証券会社が証券金融会社で株式を調達できない場合、証券金融会社が株不足となった場合、ヘッジファンドが空売りを仕掛ける場合などに、保険会社や信託銀行などから株式を調達するのに利用されている市場です。
日本の貸株市場は欧米より遅れていましたが、1998年の金融ビッグバンで本格的に整備が行われました。
5.貸借取引
制度信用取引において、証券会社と証券金融会社との間で行われる取引を、「貸借取引」と呼んでいます。
証券会社は、顧客から注文を受けると、自己調達できない資金や株式を、証券金融会社から調達しています。この際に行われる、顧客と証券会社との取引を制度信用取引、証券会社と証券金融会社との取引を貸借取引といいます。
顧客は、証券会社に委託保証金を差し入れて、制度信用取引を行います。一方、証券会社は、証券金融会社に貸借担保金を差し入れて、貸借取引を行います。
証券金融会社は、証券会社から借入の申込みを受け、証券取引所の決済機構を通じて取引を行います。例えば、証券会社が株券の借入を申込むと、証券金融会社は証券取引所の決済機構で株券を売却します。売却代金(貸株代り金という)は、担保として証券金融会社が預かります。
≪金利≫
証券会社が証券金融会社から資金を借りる場合には、証券会社が証券金融会社に金利を支払います。これを、融資金利といいます。
証券会社が証券金融会社から株式を借りる場合には、証券金融会社が証券会社に金利を支払います。これを、貸株代り金金利といいます。
※証券金融会社は、株式の売却代金(貸株代り金)を担保として預かるため、証券会社からお金を借りていることになるので、金利を支払います。
6.信用取引の利用法
信用取引は、投機目的の「空買い」や「空売り」の他に、保有している株式の値下がり損をカバーするために利用されています。
保有している株式の値下がりが予想される場合、直ちに株式を売却できれば損失を回避できるのですが、名義書換中などの理由で、その株式をすぐに売却できない場合があります。
こうした場合に、信用取引で空売りしておく方法を利用します。信用取引で生じる利益で、株式の値下がり損を補います。この空売りを、「つなぎ売り」、または「保険つなぎ」と呼んでいます。
予想通りに株式が値下がりした場合には、値下がりした価格で株式を買い戻せば損失を回避できます。逆に、株式が値上がりした場合には、保有している株式を現渡しすることができます。
信用取引を行うには、一定の知識と資力が必要です。
特に、投機目的で行う信用取引は、投資した資金に比べて大きな利益が期待できる反面、価格変動の予想がはずれると、被る損失も大きくなります。
7.信用取引残高の見方
株価の変動を予測するための指標として、「3市場の信用取引残高」と、「日証金残高」が発表されています。
≪3市場の信用取引残高≫
信用取引残高の情報は、日本経済新聞などの情報紙に、東京、大阪、名古屋の3市場残高(売り残、買い残)が掲載されています。
※売りの注文株数の合計を「売り残」、買いの注文株数の合計を「買い残」といいます。
3市場残高と日経平均株価は連動しています。3市場の買い残が増加する場合には、日経平均株価は上昇する傾向があります。反対に、買い残が減少する場合には、日経平均株価は下落する傾向があります。
これは、買い残の増加は、株式に値上がりの期待を持つ人が多いことを反映するからです。しかし、買い残は、6ヶ月以内に売り戻しの注文が入りますから、株価の値下げ要因になります。
一般に、信用取引買い残が株式の時価総額の2%を超えると、上値が重くなり、株価を押し下げることが知られています。
3市場の取引残高は、売り残が896百万株で6411億円、買い残が2501百万株で1兆3810億円となっています(2002年5月31日現在)。
3市場取引残高(2002年5月31日現在)
≪日証金残高≫
証券金融会社の1つである日本証券金融が、貸借取引において、証券会社に貸し付けた資金と株式の合計を発表しています。
※貸し付け資金の合計を「融資残高」、貸し付け株式の合計を「貸株残高」といいます。
8.信用取引の規制
信用取引には、市場での取引量を増やし、株の流通を活発にすることで、株価の乱高下を防ぎ、市場価格を安定させる効果があります。
しかし、信用取引が過度に利用された場合には、相場の加熱・株価の乱高下などを抑制するために、規制措置がとられます。
規制措置は、新規約定分のみを対象としています。主な規制には、委託保証金率の引き上げ、代用掛け目率の変更(対象:全銘柄)、信用取引の売買制限・禁止などがあります。
規制は、証券取引所や証券金融会社が行いますが、証券会社が自社のみを対象とした独自の規制を行う場合もあります。
≪日々公表銘柄≫
日本証券業協会では、個別銘柄における信用取引の過度の利用を抑制するため、ガイドライン(信用残高基準、株価・出来高基準)に基づいて日々公表銘柄を指定し、信用取引の残高(売り残、買い残)を毎日公表しています。
≪注意喚起通知≫
証券金融会社は、特定の貸借銘柄に取引が集中した場合、注意喚起通知を行い、利用者に注意を促しています。
注意喚起通知後も状況が改善されない場合には、証券会社に対して、貸借取引の申込制限・停止を実施します。
証券取引所は、注意喚起通知が実施された銘柄を「貸株注意喚起銘柄」、貸借取引の申込制限・停止が実施された銘柄を「貸株申込制限銘柄」として、信用取引の残高(売り残、買い残)を毎日公表しています。
9.空売り規制
空売りは、株価が下落しても利益を得られる投資方法です。しかし、投機的な空売りの乱用により、意図的に株価を下落させることは違法です。
不当な空売りが乱用されたため、金融庁は、空売り規制の強化を行いました。「空売りへの総合的な取組みについて(2001年12月21日)」を策定・公表し、空売りに関する規制を「早急に取り組むべきデフレ対応策(2002年2月27日)」に盛り込みました。
今回の空売り規制は、1998年に旧大蔵省が行った空売り規制を強化したものです。
≪空売りの価格規制の強化≫
空売りには、貸株市場で株式を調達して売り付ける場合と、信用取引制度により証券金融会社から株式を調達して売り付ける場合があります。機関投資家は貸株市場を利用しますが、個人投資家は信用取引制度を利用します。
2002年3月6日施行の空売り規制では、貸株市場で株式を調達して空売りを行う場合の、「直近公表価格」に関する規制が改正されました。
※「直近公表価格(ちょっきんこうひょうかかく)」とは、証券取引所が直近に公表した価格のことをいいます。
従来の制度では、「直近公表価格」未満での空売りを禁止していましたが、3月6日施行の空売り規制により、次のように改正されました。
「直近公表価格」が、その直前の公表価格(直近公表価格と異なるもの)を下回る場合には、「直近公表価格」以下での空売りを禁止します。
ただし、「直近公表価格」が、その直前の公表価格(直近公表価格と異なるもの)を上回る場合には、これまでと同様に、「直近公表価格」未満での空売りが禁止となります。
≪貸借取引貸株料の新設≫
貸借取引貸株料とは、証券金融会社が証券会社を通じて、信用取引の売り方から徴収する貸株料です。
貸借取引貸株料は、品貸料(逆日歩)とは違います。買い方が受け取ることはできません。
これまで、証券金融会社は貸株料を無料としていましたが、2002年5月7日約定分から徴収することになりました。
貸借取引貸株料は、証券金融会社が徴収する貸株料(年率0.4%)に、0.75%上乗せして、年率1.15%とする証券会社が多いようです。
一方、買い方への融資金利は、証券金融会社が徴収する金利(年率0.6%)に、0.75%上乗せして、年率
1.35%とする証券会社が多いようです。
≪証券会社の摘発≫
一部の証券会社で空売りの乱用が認められたため、金融庁は、空売りの明示・確認義務を信用取引にも適用するなど規制を強化し、空売り規制違反を行った証券会社に対して、行政処分を行いました。
≪空売り月間集計の公表≫
東京証券取引所は、2002年3月18日、貸株市場で株式を調達して売り付ける「空売り」の売買代金の月間総額を4月から毎月公表することを決め、4月22日に3月分の空売り月間集計を発表しました。
補足:口座の開設
信用取引を始めるには、「信用取引口座設定約諾書」を証券会社へ差し入れて、信用取引口座を開設します。信用取引の決済は、すべてこの口座を通して処理されます。
信用取引はハイリスク・ハイリターンな取引であるため、各証券会社は信用取引開始基準を定め、口座開設時に信用取引に関する説明や投資家の審査(投資経験や預かり資産の有無など)を行っています。審査にパスしないと、信用取引はできません。
まとめ
信用取引とは何か
株式投資に必要な資金や株式を、証券会社から借りて行う株式取引
・証券会社に一定の委託保証金を差し入れる
・資金を借りて株式を購入する空買いと、株式を借りて売却する空売りがある
決済方法
差金決済…反対売買をして差額を受け渡す方法
実物決済…証券会社から借りていた資金や株式をそのまま返済する方法
コストと収益
買い方の費用…委託証拠金の調達コスト、日歩(支払金利)、信用管理費、名義書換料、委託手数料、消費税、決済益への課税 など
買い方の収入…逆日歩、配当金相当額、新株引受権価格、決済益 など
売り方の費用…委託証拠金の調達費用、信用管理費、委託手数料、消費税、決済益の課税、逆日歩、貸借取引貸株料、配当相当額支払、新株引受に対する費用負担 など
売り方の収入…日歩、決済益 など
委託保証金
借りた資金や株式を返す保証に、顧客が証券会社に差し入れるお金
・有価証券でも代用できる…代用有価証券という
・委託保証金が当初の約定価額の20%を下回ると、追加保証金(追い証)が必要
日歩と逆日歩
日歩…資金を借りるときの金利。買い方が支払い、売り方が受取る
逆日歩…株を借りるときの品貸料。売り方が支払い、買い方が受取る
信用取引の種類
制度信用取引…資金や株式を、証券金融会社から調達
一般信用取引…資金や株式を、社内で調整、または貸株市場から調達
店頭銘柄の信用取引…資金や株式を、社内で調整、または貸株市場から調達
貸借取引
制度信用取引において、証券会社と証券金融会社との間で行われる取引
・証券会社は、証券金融会社に貸借担保金を差し入れて、貸借取引を行う
・証券金融会社は、証券取引所の決済機構を通じて取引を行う
問題と解答
- 信用取引の決済は、反対売買をして差額を受け渡す「●●決済」と、証券会社から借りていた資金や株式をそのまま返済する「●●決済」のどちらかの方法で行われます。
- ●●保証金は、借りた資金や株式を返す保証として、顧客が証券会社に差し入れるお金(または代用有価証券)です。委託保証金が当初の約定価額の20%を下回ると、●●保証金(追い証)が必要になります。
- ●●は、資金を借りるときの金利です。買い方が支払い、売り方が受取ります。●●●は、株を借りるときの品貸料です。売り方が支払い、買い方が受取ります。
- 信用取引では、制度信用銘柄の買建玉または売建玉に、●●引受権の付与や配当などの権利が発生した場合、買い方・売り方が不当な利益を得ることのないように、●●処理を行います。
- ●●信用銘柄は、上場内国株券のうち、証券取引所が選定した上場銘柄です。このうち、一定の基準を満たした銘柄を●●銘柄といい、貸借銘柄以外の銘柄を非貸借銘柄といいます。
- 証券会社は、顧客から注文を受けると、自己調達できない資金や株式を、証券金融会社から調達しています。この際に行われる、顧客と証券会社との取引を●●信用取引、証券会社と証券金融会社との取引を●●取引といいます。
- 保有している株式の値下がりが予想されるのに、その株式をすぐに売却できない場合には、信用取引で空売りしておく方法を利用します。信用取引で生じる利益で、株式の値下がり損を補います。この空売りを、つなぎ●●(または、●●つなぎ)と呼んでいます。
- 株価の変動を予測する指標として、3●●の信用取引残高と、日●●残高が発表されています。3市場残高と日経平均株価は連動していて、3市場の買い残が増加すると日経平均株価は上昇する傾向があり、買い残が減少すると日経平均株価は下落する傾向があります。
- 信用取引が過度に利用された場合には、相場の加熱・株価の乱高下などを抑制するため、●●措置がとられます。主な規制には、●●保証金率の引き上げ、代用掛け目率の変更、信用取引の売買制限・禁止などがあります。
- 2002年3月6日施行の空売り規制により、直近公表価格が、その直前の公表価格を下回る場合には、直近公表価格●●での空売りが禁止となりました。ただし、直近公表価格が、その直前の公表価格を上回る場合には、直近公表価格●●での空売りが禁止となります。
(答え)差金、実物
(答え)委託、追加
(答え)日歩、逆日歩
(答え)新株、権利
(答え)制度、貸借
(答え)制度、貸借
(答え)売り、保険
(答え)市場、証金
(答え)規制、委託
(答え)以下、未満