特別講座 セキュリタイゼーション(証券化)
1.セキュリタイゼーション(証券化)とは
有価証券を利用して金融資産を流動化させることを、セキュリタイゼーション(証券化)といいます。有価証券を利用して、お金の流れを活発にさせる動きのことを指します。有価証券は、手形、債券、株式という形で金融取引に広く利用されています。
有価証券とは、財産価値のある紙のことです。有価証券には、取引金額を小口にわけることができたり、簡単に譲渡できるなどの利点があります。
セキュリタイゼーションは、金融市場に2つの影響を与えています。
1つは、企業の資金調達方法を、間接金融から直接金融に移行させること、もう1つは、資産担保証券(ABS)を利用して、債権の流動化を促進させることです。
参考 : 有価証券
2.間接金融から直接金融へ
金融には、間接金融と直接金融という、2通りの融通方法があります。
間接金融は、企業が銀行からお金を融通してもらう方法です。銀行が、預金の形で個人から資金を集めて、銀行の責任(リスク)で企業に貸付けます。
直接金融は、個人が企業に直接お金を融通する方法です。国や企業が、株式や債券を発行して、個人から直接的に資金を調達します。借り手(企業)が債務を返さないというリスクは、貸し手(個人)が背負っています。
日本の金融機関は、間接金融である銀行を中心に発展してきました。銀行の貸出金利を低く抑えることで企業の借入負担を軽くしたことが、日本企業の国際競争力を高めたと言われています。
企業の資金調達は、銀行からの融資にたよる間接金融から、株式や社債の発行により資金調達を行う直接金融へと、急速に移行してきています。投資先の企業のリスクは、銀行ではなく、投資家が直接負うことになります。これは、個人が自己責任で投資を行なわなければならない時代の到来を示唆するものともいえます。
3.債権の流動化
企業が保有する債権を、有価証券に新しく仲間入りした資産担保証券(ABS)に形をかえて市場で流通させることを、債権の流動化といいます。
銀行が保有する貸付債権も、資産担保証券を使って投資家に売却することで、新たに資金を得ることができます。銀行は、借り手との契約はそのままで、借り手から返済を受けたのと同じ効果が得られます。銀行にとっては、資金の長期固定化が避けられ、貸倒リスクもなくなります。
資産担保証券(ABS)は、企業の資産を流動化させる新しい手法です。現在、銀行の不良債権処理の解決策として、資産担保証券を利用して流動化をはかろうという動きが出ています。
資産担保証券の発行には、複雑な仕組み(手続き)が必要です。このため、資産担保証券を使って資金を調達することを、ストラクチャードファイナンス(仕組み金融)と呼んでいます。
セキュリタイゼーションは、狭義ではストラクチャードファイナンス(Structured Finance)を使った資産流動化の動きを意味していますが、広義では銀行借入れという間接金融から、債券や株式を発行して資金調達を行う直接金融へ移行する現象を意味しています。
4.資産担保証券(ABS)とは
資産担保証券のことを、アセットバックトセキュリティ(Asset Backed Security)、略してABSと呼んでいます。ABSは、企業が保有する資産を裏付けにして発行されます。企業が保有する債権や不動産などの資産を企業から分離し、その資産から生じるキャッシュフローを原資として発行される証券です。
資産担保証券を発行するには、複雑な手続きが必要です。まず、資産を企業から分離するために、特別目的会社(SPC)を設立します。企業は、資産をそのSPCに譲渡します。
特別目的会社(SPC)は、譲渡された資産を裏付けにして証券を発行し、投資家に販売します。資産が企業から切り離されているため、元の企業が倒産などの事態に陥っても、SPCが保有する資産が健全であれば、投資家は安心して証券の支払いを受けることができます。つまり、元の企業の信用力ではなく、対象資産の信用力に対して投資される証券です。
例えば、貸付債権を裏付けに発行された資産担保証券の場合、債権を保有していた企業が倒産しても、貸付債権自体が優良な債権であれば、投資家はSPCを通じて証券の支払いを受けることができます。
資産担保証券のはじまりは、1970年代に米国で開発されたモーゲージ担保証券(MBS)にあります。MBSは、住宅ローン債権を集めて、これを裏付けに証券を発行して投資家に売却したものです。
企業から分離される資産(Asset)には、売掛金、受取手形、債券(社債)、貸付金(住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードローン)、リース債権、コマーシャルペーパー(CP)などがあり、幅広い資産を対象に証券化が行われています。
5.資産担保証券の種類
資産担保証券には、対象資産の種類ごとに個別のネーミングがあります。
貸付金を証券化したものをローン担保証券(CLO)、債券を集めて証券化したものを債券担保証券(CBO)と呼んでいます。
CLO(Collateralized Loan Obligation)は、別名、多数貸付債権プール型担保証券(ローン担保証券)といいます。貸付債権を多数集めて債権プールを作り、これを裏付けに発行される証券を意味するからです。
CBO(Collateralized Bond Obligation)は、別名、多数債券プール型資産担保証券(債券担保証券)といいます。債券(社債)を多数集めて債券プールを作り、これを裏付けに発行される証券を意味するからです。
また、ローン債権と社債を合わせた資産を対象に発行される証券を、CDO(Collateralized Debt Obligation)と呼んでいます。多数債権プール型資産担保証券のことです。デット(Debt)は、債務(負債)という意味ですが、お金を融資する金融機関から見ると債権となります。
参考 : 抵当証券
まとめ
1.セキュリタイゼーション(証券化)とは
間接金融から直接金融への動き
債権の流動化
2.間接金融から直接金融へ
間接金融…企業が銀行からお金を融通してもらう方法(リスクは銀行が負う)
直接金融…個人が企業に直接お金を融通する方法(リスクは個人が負う)
3.債権の流動化
資産担保証券(ABS)を使って、企業資産を市場で流通させること
資産担保証券を使って資金調達することを、ストラクチャードファイナンスという
4.資産担保証券(ABS)とは
企業から分離した資産を裏付けに発行される証券
5.資産担保証券の種類
CLO(ローン担保証券)…ローン債権を裏付けに発行された証券
CBO(債券担保証券)…社債を裏付けに発行された証券
CDO…ローン債権と社債を合わせた資産を対象に発行される証券
問題と解答
- セキュリタイゼーションとは、●●証券を利用して金融資産を流動化させる現象のことです。セキュリタイゼーションは、企業の資金調達方法を、間接金融から直接金融に移行させることや、資産担保証券を利用して、●●を流動化させる動きに現れています。
- ●●金融は、企業が銀行からお金を融通してもらう方法です。銀行が、預金の形で個人から資金を集めて、●●の責任で企業に貸付けます。日本の金融機関は、間接金融である銀行を中心に発展してきました。
- ●●金融は、個人が企業に直接お金を融通する方法です。国や企業が、株式や債券を発行して、個人から直接的に資金を調達します。借り手が債務を返さないというリスクは、貸し手である●●が背負っています。
- 企業が保有する債権を、●●担保証券(ABS)に形をかえて市場で流通させることを、債権の●●化といいます。銀行が保有する貸付債権も、資産担保証券を使って投資家に売却すると、資金の長期固定化が避けられ、貸倒リスクもなくなります。
- 資産担保証券の発行に複雑な仕組みが必要なことから、資産担保証券を使って資金を調達することを、スト●●チャードファイナンス(仕組み●●)と呼んでいます。
- 資産●●証券(ABS)は、企業が保有する●●や不動産などの資産を企業から分離し、その資産から生じるキャッシュフローを原資として発行される証券です。
- 特別●●会社(SPC)は、企業から分離・譲渡された資産を裏付けにして証券を発行し、投資家に販売します。資産担保証券は、元の企業の信用力ではなく、対象●●の信用力に対して投資される証券です。
- C●●は、貸付債権を多数集めて債権プールを作り、これを裏付けに発行される証券です。別名、多数貸付●●プール型担保証券といいます。
- C●●は、債券(社債)を多数集めて債券プールを作り、これを裏付けに発行される証券です。別名、多数●●プール型資産担保証券といいます。
- C●●は、ローン債権と社債を合わせた資産を対象に発行される証券です。別名、多数●●プール型資産担保証券といいます。
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