特別講座 一人でできる 会社設立マニュアル
講師:有馬秀次
ひとりで会社を作るコツ
あなたが起業を目指すとき、「会社はどうやって作るのか?」という疑問に遭遇します。
ここでは、はじめて会社を設立しようとする際に知っておくと便利な基礎知識をまとめてご紹介します。
商業登記の手続は面倒ですが、自分で情報を集め、計画を練り、実行に移すという体験は、大きな自信になります。
起業家にとって、好奇心とチャレンジ精神は大変重要です。起業の第一歩として、会社設立の手続きを自分の手でやってみましょう。
1.会社作りのレシピ
会社とは何か
会社とは、自然人と同じように財産の取引が認められる「法律上の権利義務の主体となれる人の集団」のことで、法人といいます。会社は、営利を目的とする法人であるため、営利法人といいます。
会社の種類
会社は、会社の債務をどこまで負うのかという責任の範囲によって、合名会社、株式会社、合資会社の3つに分類されます。
合名会社は、会社の債務に対して、出資者が全責任を負う会社です。これを無限責任といいます。
株式会社は、会社の債務に対して、出資者がその出資額を限度として責任を負う会社です。これを有限責任といいます。有限責任では、株主は自分の出資額以上に責任を負う必要はありません。
合資会社は、無限責任を負う出資者と有限責任を負う出資者がいる会社です。
2.どうやって作るの?
どこに申請するの?
会社は、登記所に登記することで作れます。登記所とは、法務局のことです。
法務局は、所在地によって管轄が異なります。登記は、会社の本店所在地を管轄する登記所で行います。
(申請手続きには、登記所のほか、はんこ屋、市役所、公証人役場、銀行に行く必要があります。)
どのように申請するの?
登記は、書面で行います。登記を書面で行うことを書面主義といいます。
誰でも申請できるの?
登記は、税理士や司法書士などの専門家を通さずに、個人で行うことができます。
会社の設立は、会社設立を企画する発起人(ほっきにん)が書類を作成して、法務局に登記すればよいのです。
これを当事者申請主義といいます。
ポイント1 登記は、設立登記申請書類を作成して、管轄法務局に行く
ポイント2 登記は、自分でできる
3.どこがむずかしいの?
会社設立のむずかしさは、登記書類を簡単に作れないところにあります。
手順が煩雑でわかりにくい
登記を行うには、登記所(法務局)のほかに、公証人役場、銀行、市役所などに行く必要があります。
登記の手順は長くて煩雑ですが、チェックリストを作成して作業を進めるとスムーズに進められます。チェックリストといっても、自分のためのメモ書ですから、むずかしく考える必要はありません。
登記書類の書き方がわからない
登記書類の定型の雛形書式は、市販されています。これを利用するのが簡単な方法です。
日本法令の設立登記申請届出様式集を購入すればよいのですが、必ず、最新の発行年月日のものを購入してください。日付の古い(改正された会社法に適合していない)様式集を使うと、公証人役場で認証に修正が必要となり、余分な手間がかかります。
ポイント1 設立手順のチェックリストを作る
ポイント2 日本法令から様式集を購入する
参考 : 日本法令
4.どれくらいの期間で会社は作れるの?
会社設立には、約2週間かかります(登記書類の準備に1週間、登記申請してから登記完了までに1週間です)。
会社員の方は、3日から5日程度の休暇をとれば登記できます。また、家族に代理人になってもらえれば、休暇の必要はなくなります。
5.資本金は、いくら必要なの?
株式会社は、株式を発行するという形で資本金(事業を行うために準備する元手)を集めます。
株式会社の資本金は、最低資本金規制により1000万円以上と決められています。ただし、経済産業省の最低資本金規制特例制度を利用すれば、資本金は1円でよいことになっています。この特例によるものを確認株式会社と呼んでいます。
平成18年施行予定の新会社法では、最低資本金規制が撤廃されますので、株式会社の資本金は1円から作れるようになります。
6.設立費用は、いくらかかるの?
会社の設立には、資本金とは別に、概算で約30万円の手数料がかかります(設立する会社の規模の関係で、費用は若干異なります)。
平成18年施行予定の新会社法では、資本金1円の会社が設立できます。この場合、払込金保管証明書を残高証明書に代えることができますので、下記の例よりさらに銀行への支払手数料が安くなります。
(資本金1000万円の場合)
7.申請に必要な書類は?
会社設立の登記に必要な申請書類とは、定款、取締役会議事録、取締役・監査役の調査書、発起人の印鑑登録証明書などの書面です。書類の中身と枚数は、設立方法(募集設立か発起設立)や会社組織の違いにより変わります。
たとえば、発起人が1人で発起設立の会社を作る場合には、発起人決定書、取締役・監査役選任決定書、取締役・監査役の就任承諾書などの一部の書類は、定款に記載することで省くことができます。
各書面の意味を理解しておこう
定款(ていかん)は、会社名、会社の目的(事業内容)・組織や業務などの根本規則を記載した書面です。
発起人会議事録は、発起人が数人いる場合に、発起人の代表者、会社名、事業の目的、資本金の大きさを記載した規約書です。
発起人決定書は、発起人が1人の場合に、会社名、事業の目的、資本金の大きさを記載した規約書です。定款に記載すると、この書類は省略できます。
取締役会議事録は、代表取締役の選任の決議を表した書面です。
取締役・監査役の調査書は、役員によって、会社の財産が定款の記載通りであるかどうかの調査書です。
株式会社の設立方法
株式会社の設立方法には、「発起設立」と「募集設立」の方法があります。
発起設立は、発行株式を、1人以上の発起人だけで全部引き受ける方法です。
募集設立は、発行株式を、1人以上の発起人と、発起人以外の1人以上の外部の人に引き受けてもらう方法です。
8.会社設立の具体例(1)書類の準備
ここでは、資本金1000万円の会社(発起設立、取締役3人、監査役1人)を設立する場合を例に、手続きのポイントを解説していきます。
書類の準備
おおよそ、下記の書類の準備が必要になります。
定款は3部作成しますが、公証人役場で2部だけ返されます。このうち、1部は登記用の謄本で、もう1部は会社の保存用になります。銀行には、コピーしたものを渡します。
9.会社設立の具体例(2)設立の手順
設立の具体的な手順を5つの過程にわけて考えてみましょう。
1.準備段階
(1)会社名を考える
会社名を法律用語で商号といいます。商号には、株式会社を表記するようにします。たとえば、○×商事という会社名を思いついた場合、株式会社○×商事、または、○×商事株式会社と名付けます。
会社名として、「銀行」、「信託」、「大学」などは使用できないので注意が必要です。
また、会社には、認可、免許、届出が必要な業種があります。事業目的によっては、関係省庁に前もって打診しておく必要があります。
(2)類似商号の調査
候補の会社名が決まったら、本店予定地の管轄法務局に行って、同名の会社がすでに登記されていないかどうかを調べます。これを類似商号の調査と呼んでいます。
法務局に行ったついでに、収入印紙を販売しているか、事務手続きがコンピューター化されているかどうかを確認しておきましょう。コンピューター化されている場合には、OCR申請用紙(コンピューターで認識される形式の用紙)をもらいます。
(3)会社代表印の作成
会社代表印を作成します。登記には会社代表印以外は使いませんが、通常、会社代表印、銀行印、角印の3点セットを作成しておきます。会社代表印を作らずに個人の実印を会社の代表印とすることもできます。
会社代表印は、外側に「商号」、内側に「代表取締役之印」と彫った巻印が一般的です。印影サイズは、一辺が10ミリ以上、30ミリ以内に収まるものにします。5.5分丸(16.5ミリ)か6分丸(18ミリ)などがおすすめです。
※実印とは、居住区の市区町村に登録している個人の印章のことです。
※捨印とは、証書に訂正があった場合に備えて、欄外に念のために押しておく印影のことです。
※割印とは、二枚の書類にまたがって1つの印を押すことで、契印ともいいます。2つの書類が連続していることを証明します。
(4)印鑑登録証明書の準備
発起人の印鑑登録証明書を2部準備します。印鑑登録証明書は、実印の印影が真正なことを証明した文書です。
個人の印鑑登録証明書は、市役所に行って取ります。
2.登記書類の作成
(1)発起人会議事録(発起人決定書)の作成
会社設立を企画する人のことを発起人といいます。会社設立時には、発起人会を開催して、商号、目的、発行株数などの情報を決定し、発起人会議事録を作成します。
発起人が1人のときには、発起人決定書を2通作成します(1通は銀行用、1通は会社保存用)。
(2)定款の作成
定款とは、社団法人(株式会社)の根本的なルール(目的、組織や業務執行などの活動のあり方)を書面化したものです。定款には、発起人全員の記名、押印が必要です。定款は3通作成する必要があります。
定款の綴じ方は、少し厚手の表紙に、書類を包み込むようにして、左側をホッチキスで2箇所とめます。ページとページの綴り目に発起人の割印をします。本例は発起人は1人ですが、複数の場合には、発起人全員の押印が必要です。
訂正方法
定款の記載の訂正方法には、一定の決まりがあります。訂正箇所の文字の上に2重線を引いて、その文字の上に訂正する文字を書きます。そのページの上部に「2字削除 2字加筆」のように記載します。その下に発起人全員の実印を押します。訂正箇所を修正液で消すことは、許されません。
公証人による定款の認証
定款は、公証人役場に行って公証人の認証を受ける必要があります。認証を受けていない定款は、登記申請できません。
公証人役場へ提出する書類は、定款3通、発起人の印鑑登録証明書1通です。定款3通のうち、1通は公証人役場の保存用で、2通返却されます。このうち、1通が登記所への申請用、残りの1通は会社の控えになります。
定款の認証には、他に、発起人の印鑑と手数料92000円(認証代5万円、印紙代4万円、謄本の認証代2千円)が必要です。
3.出資金の払込(事業資金の手当て)
株式会社は、株式を発行する形で資本(事業を行うために準備する元手)を集めます。
現金で資本を準備している場合には、銀行に預金口座を開設して、出資金の払込みをします。株式払込銀行に、株式申込事務取扱委託書、認証済み定款のコピー、発起人の印鑑登録証明書、(発起人決定書)、(引受株数明細書)を提出して、銀行から払込金保管証明書を発行してもらいます。株式申込事務取扱委託書の用紙は、銀行の窓口でもらます。
資本金1円の株式会社の場合には、払込金保管証明書の代わりに、残高証明書を準備すればよいことになっています。発起人の個人口座に振込みを行って、通帳のコピーを残高証明書とします。
4.取締役の選任の手続き(個人会社なら定款に記載)
(1)取締役・監査役の選任
発起設立(発起人が全額資金を出資)の場合
定款を作成して認証を得たら、会社の組織づくりをします。会社の業務執行に関する意思決定や監督を行う取締役と、会社の会計監査を行う監査役を決定します。
発起人が1人の場合には、取締役・監査役選任決定書を作成します。また、任命された取締役や監査役から就任承諾書をもらう必要があります。しかし、この取締役・監査役の選任手続きを、定款に記載することで済ますことができます。この場合、取締役・監査役選任決定書と発起人の就任承諾書の作成は不要になりますが、発起人以外の取締役と監査役からの就任承諾書は必要です。
本例では、定款に記載して、発起人が記名・押印する方法で取締役・監査役の選任手続を行います。
一方、発起人が1人でないときには、発起人会を開催して、取締役・監査役の選任を行い、発起人会議事録を作成します。
募集設立(発起人以外の人に株式の一部を引き受けてもらう)の場合
募集設立では、株式払込後に、発起人・株式申込人の全員で創立総会を開催して、創立総会議事録を作成します。
(2)代表取締役の選任
次に取締役会を開催して、代表取締役を決定し、これを取締役会議事録に記載します。
本例では、発起人が代表取締役に選任されることにします。
設立登記申請書に、「取締役・監査役については、定款の記載を援用、代表取締役については、取締役会議事録を援用」と記載すると、代表取締役の就任承諾書は作成不要です。
本例では、取締役会議事録に記載することにして、代表取締役の就任承諾書は作成しません。
(3)取締役・監査役による調査
取締役と監査役には、会社の設立事項に間違いがないかを調査する義務があります。これを書面にしたものが取締役・監査役の調査書です。調査書は2通作成します(1通は登記申請用、もう1通は会社保存用)。
5.設立登記・印鑑登録の申請手続
管轄法務局に株式会社設立登記申請・印鑑登録申請をします。
登記申請書は、A4サイズです。登記申請書に収入印紙を貼り付けるだけの空欄がある場合は、登録免許税納付用台紙は不要です。登録免許税額の収入印紙は、法務局で販売しています。販売していない場合は、郵便局で購入します。登録免許税の印紙は、消印してはいけません。
2通ある定款のうち、謄本の方を法務局に提出します。どちらが謄本かは、公証人が定款に付けた紙の記載からわかります。また、代表取締役以外の人が登記申請する場合には、委任状が必要です。
登記申請書類は、大きく3つのグループにわけて綴じます(綴じ方には決まりがあります)。グル-プ①は、ホッチキスで止めます。グレープ②は、クリップで止めます。グループ③は何もしません。最後に上からグループ③、①、②の順番にそろえて大きなクリップで止めて完成です。
登記完了後の手続
株式会社設立登記申請から完了まで約7日かかります。完了後、下記の申請書を使って、会社登記簿、印鑑カード、印鑑登録証明書の交付を受けます。
登記簿謄本閲覧交付申請書
登記事項証明書交付申請書
印鑑カード交付申請書
印鑑証明書交付申請書
参考 : 日本法令