株式取引入門講座 第10回 ワラント債
1.ワラント債(新株引受権付社債)
ワラント債とは、発行会社の株式を買い付ける権利の付いた社債のことをいいます。この権利のことを、ワラント(新株引受権)と呼んでいます。
この権利を持っていると、好きな時にその会社の株式を予め定められた価格で買い付けることができます。この予め定められた価格のことを行使価格(こうしかかく)といいます。ちょうど、転換社債の「転換価格」にあたります。
ワラント債は、株式を手に入れる際に新たに資金が必要です。株式を手に入れた後に、社債が手元に残っている点が転換社債との違いです。
ワラントの権利を実行することを行使(こうし)するといいます。また、権利を実行しないことを放棄(ほうき)するといいます。
ワラントの権利には有効期間があります。これを行使期間といいます。行使期間を過ぎると、ワラントの権利はなくなり無価値となります。商法では、国内で発行されるワラントの行使期間を10年以内と定めています。
社債額面に対して与えられる新株引受権の割合のことを付与率といいます。額面100万円の社債に対して新株100万円が買えるならば、付与率は1です。新株50万円が買えるならば、付与率は0.5となります。付与率は、最大1と決められています。
例えば、社債額面100万円のワラントの行使価格が1000円だとすると、その会社の株式を1株1000円で1000株買い付けることができます。
その株式が値上がりするとワラントが役立ちます。株価が1200円になった場合、ワラントを行使して発行会社から1株1000円で購入します。株式市場へ持っていけば1200円で売れます。市場価格1200円と行使価格1000円との差額200円が利益になります。
このワラントを1株あたり50円で買っていたとすると、200円から50円を差し引いた150円が純利益になります。50円の投資資金で150円の利益を得たことになります。
一方、株が値下がりした場合は、株を1000円で買う権利は使いません。 ワラントに使った費用50円が損失となります。
2.分離型ワラント
ワラント債の社債とワラントを切り離して別々に販売できるタイプを分離型ワラント債といいます。社債部分とワラントは、別々の市場で取引されます。現在流通するワラント債は、ほとんど「分離型ワラント債」です。
切り離された社債部分を、エクスワラントとかポンカス債と呼んでいます。
エクスワラントは、普通社債と同様に定期的に利息が受け取れます。利息は、普通債より低く転換社債より高く設定されています。
3.ワラントの魅力
≪投資家≫
ワラントは、株式を購入するのと同じ効果が少額の資金で得られます。
ある株式の株価が1000円、そのワラントが100円で取引されているとします。株式を直接購入すると1000円の資金が必要ですが、ワラントでは100円で済みます。株価が1300円に値上がりすると、株式投資の利益率は30%となりますが、ワラントの利益率は300%になります。
大きさの違う歯車を組み合わせると大きい歯車が1回転する間に小さい歯車は数回転するように、株価とワラント価格の間の変動率には、「てこの力」の関係があります。これをギアリング効果と呼んでいます。ワラント投資の効率性を示す指標がギアリング・レシオです。株価が1株あたりのワラント金額の何倍にあたるかを示しています。
≪企業≫
ワラント債には、ワラントという魅力があるため、普通社債に比べて低い金利での資金調達が可能です。また、ワラントが行使されると、社債で借り入れた資金とは別に資金が集められます。
4.パリティ(理論価格)
ワラントの価値は、株価が行使価格よりどれだけ値上がりしているかで決まります。
行使価格1000円のワラントの保有者は、いつでも1株1000円で手に入れられます。その株式が1500円に値上がりしていれば、株式市場で1500円で売却できます。1株あたり500円(1500-1000)の利益です。
この株価と行使価格の差額をパリティ(理論価格)と呼んでいます。現時点でのワラントの価値を表します。パリティは、行使価格を100%とした時の%で表示しています。
株価1500円、行使価格1000円のパリティを計算しなさい。
パリティを金額で見るには、行使価格に50%を掛けて500円(1000×50%)と計算する方法と、株価から行使価格を差し引いて500円(1500-1000)と計算する方法があります。
パリティ(金額)=行使価格×パリティ(%)
パリティ(金額)=株価-行使価格
転換社債のパリティとの違いは、債券本体部分の価格(100%)を含めて表示するかどうかです。転換社債のパリティは150%となります。
パリティは市場のワラント価格の基準です。パリティが50%であるのにワラント価格が20%となっていた場合、ワラントを買ってすぐに儲けることができます。
ワラントを200円(1000×20%)で購入すると、株式を1000円で手に入れて、1500円で売却できますから、500円の株式売却益が得られます。ワラント購入にかかった費用は200円ですから、差し引き300円(500-200=300)の利益が得られるというわけです。
もし、こうしたうまい話があれば、誰もがワラントを購入するため、ワラント価格は上昇していきます。結局、ワラント価格は、パリティと同じになるまで上昇します。そのため、パリティがワラント価格の最低基準と考えられるわけです。
株価が値上がりすると予想する人達は、パリティより高くてもワラントを購入しようとします。つまり、パリティにいくらか上乗せした価格で、ワラントを取引するわけです。この上乗せ部分をプレミアムと呼んでいます。将来に株式が値上がりするだろうと期待して支払う部分です。したがって、ワラント価格は、パリティにプレミアムを上乗せしたものということになります。
ワラントコスト=パリティ金額+プレミアム金額
株価が行使価値より下がるとパリティはゼロとなりますが、将来への期待部分は残るためワラント価格はゼロにはなりません。
ワラントもオプションの一種ですが、オプションでは、パリティとプレミアムの合計額をプレミアムと呼んでいます。言葉の意味が少し違っていることに注意が必要です。
5.プレミアム%(乖離率)
ワラント価格がパリティからどれだけ離れているかを見るのに乖離率(プレミアム)を利用しています。現在の株価に対して、ワラントがどれだけ割高に買い込まれているかを見る指標です。
一般に、プレミアムは、金額ではなく株価からの離れ具合を%で表示しています。 プレミアム(%)は、ワラント価格(%)からパリティ(%)を差し引いて計算することができます(詳細は、参考を参照してください)。
ワラント価格もパリティも、行使価格を100%とした場合の%で表示されますが、プレミアム%は、株価を100%としたときの割合として計算しているため、割合の意味の違いに注意が必要です。
6.ワラント取引の留意点
ワラントを手仕舞いするには、ワラントを売却する方法と、ワラントを行使する方法の2つがあります。ワラント価格がパリティより高い場合には、ワラントとして売却した方がプレミアム分だけ高く売れます。
ワラントには行使期間が決まっています。行使期間を過ぎると、ワラント価値は消滅してしまいます。
ワラントは、ギアリング効果の高いハイリスク・ハイリターンな商品です。
◆参考1 : パリティ計算式の導き方
1株あたりのワラント価格をワラントコストといいます。
ワラントコスト=行使価格×ワラント価格(%) で計算されます。
ワラント価格は、パリティとプレミアムの合計なので
ワラントコスト=パリティ金額+プレミアム金額 とおけます。
この式を変形すると、
プレミアム金額=ワラントコスト-パリティ金額 … (1) となります。
パリティ金額=株価-行使価格 を(1)式に代入すると、
プレミアム金額=ワラントコスト-(株価-行使価格) … (2) と変形できます。
ここで、プレミアム金額を株式を100としたときの割合として計算することにすると
プレミアム金額=株価×プレミアム%÷100 と式が作れます。
これを、(2)式に代入すると、
株価×プレミアム%÷100=ワラントコスト-(株価-行使価格) とおけます。
プレミアム%で式を整理すると、
プレミアム%={[ワラントコスト-(株価-行使価格)]÷株価}×100
プレミアム%=[(ワラントコスト+行使価格)÷株価-1]×100
◆参考2
プレミアム%からプレミアム金額を計算するには、株価にプレミアム%を掛けることになります。この計算の分母に、株価ではなく行使価格を使う場合があります。その場合には、行使価格にプレミアム%を掛けることになります。
◆参考3
ワラントは、海外の方が発行費用が安いため、主に海外市場で発行されています。これを外貨建ワラントと呼んでいます。外貨建てワラントには、額面はドル表示で行使価格が円で表示されるものがあります。
外貨建ワラントのパリティを計算する場合には、付与率や為替レートを付け加えて計算します。
パリティ(%)=(株価-行使価格)÷行使価格×付与率×固定為替÷実勢為替×100
まとめ
ワラント債
発行会社の株式を買い付ける権利の付いた社債
分離型ワラント債
社債とワラントを切り離して別々に販売できるタイプ
ギアリング・レシオ
ワラント投資の効率性を示す指標
株価が1株あたりのワラント金額の何倍かを示す
パリティ(理論価格)
株価と行使価格の差額。現時点でのワラントの価値
パリティ(%)=(株価-行使価格)÷行使価格×100
プレミアム%(乖離率)
ワラント価格がパリティからどれだけ離れているか見る指標
プレミアム%=[(ワラントコスト+行使価格)÷株価-1]×100
問題と解答
- ワラントとは、発行会社の株式を買い付ける権利のことで、●●引受権と呼んでいます。ワラント債は、株式を手に入れる際に新たに資金が必要で、株式を手に入れた後に、●●が手元に残っています。
- ワラントの権利を実行することを●●する、権利を実行しないことを●●するといいます。
- ワラントの権利には有効期間があります。これを行使●●といいます。社債額面に対して与えられる新株引受権の割合のことを●●率といいます。
- ●●型ワラント債とは、社債とワラントを切り離して別々に販売できるタイプのワラント債です。切り離された社債部分を、●●●ワラントとかポンカス債といいます。
- ワラント投資の効率性を示す指標をギアリング・●●●といいます。株価が1株あたりのワラント●●の何倍にあたるかを示しています。
- 株価と行使価格の差額をパリティ(●●価格)といい、現時点でのワラントの価値を表わします。
●●ティ(%)=(株価-行使価格)÷行使価格×100
- ワラント価格は、パリティに●●ミアムを上乗せしたものです。株価が行使価値より下がるとパリティはゼロになりますが、将来への期待部分が残るので●●ント価格はゼロにはなりません。
- ワラント価格がパリティからどれだけ離れているかを見るのに●●率(プレミアム%)を利用します。
プレ●●ム%=[(ワラントコスト+行使価格)÷株価-1]×100
- ワラントを手仕舞いするには、ワラントを●●する方法とワラントを●●する方法があります。
- ワラント債は、主に●●市場で発行されています。これを●●建ワラントといいます。
(答え)新株、社債
(答え)行使、放棄
(答え)期間、付与
(答え)分離、エクス
(答え)レシオ、金額
(答え)理論、パリ
(答え)プレ、ワラ
(答え)乖離、ミア
(答え)売却、行使
(答え)海外、外貨