株式取引入門講座 第7回 証券会社
講師:有馬秀次
1.証券会社の業務と役割
≪証券会社とは何か≫
証券会社は、直接金融の代表的な金融機関で、株式、公社債、投資信託などを扱う会社です。
全国には、226社の国内証券会社と40社の外国証券会社があります(2004年2月1日時点)。
◆株式市場の仲介役
証券会社は、企業の株式や債券発行による資金調達に際し、株式市場の仲介役を行います。株式の取得は、必ず証券会社を通じて行われます。投資家が直接取引したり、証券取引所に入ることは禁止されています。
◆免許制から登録制へ
証券会社を営むには、大蔵大臣から免許を受ける必要があったのですが、1998(平成10)年12月からは登録するだけで証券業を営めるようになりました。免許制から登録制への規制緩和です。
2004(平成16)年2月1日時点で、銀行のように他業種から証券業に参入する会社が217社あります。これは、証券業界に新規参入しやすくなったことを反映しています。
≪証券会社の4つの業務≫
証券会社には、(1)委託売買業務(ブローカー)、(2)自己売買業務(ディーラー)、(3)引受業務(アンダーライター)、(4)募集/売り出し業務 の4つの業務があります。
委託売買業務と自己売買業務は流通市場の業務で、引受業務と募集/売り出し業務は発行市場の業務です。
(1)委託売買業務(ブローカー)
委託売買業務とは、投資家(顧客)から委託を受けて、有価証券(株式や債券)の売買を行う業務のことで、ブローカー業務ともいいます。主に流通市場にかかわる業務です。
証券取引所で取引できるのは、正会員の資格をもった証券会社だけです。一般の投資家は、証券会社に取引を取り次いでもらうことにより、株式を売買しています。
売買銘柄、売買の時期、数量などを決めるのは投資家です。証券会社は投資家の注文を仲介するだけで、その銘柄の値上がりや値下がりの結果生じる責任は、すべて投資家が負います。
※以前は、正会員の資格をもった証券会社のほかに才取会員も取引を仲介していました。しかし、2001(平成13)年3月31日に、最後の才取会員である実栄証券が証券業から撤退し、才取会員はいなくなりました。
(2)自己売買業務(ディーラー)
自己売買業務とは、証券会社が、自己の資金で、自己の利益のために、有価証券(株式や債券)を売買する業務のことで、ディーラー業務ともいいます。主に流通市場にかかわる業務です。
(3)引受業務(アンダーライター)
引受業務とは、企業が株式や債券を発行する場合に、発行会社に代わって有価証券を引き受ける業務のことで、アンダーライター業務ともいいます。 主に発行市場に関わる業務です。
証券会社は、新株式や新債券をいったん買い取り、広く投資家へ販売します。しかし、引き受けた後に全部売りきることができなければ、証券会社が引き取らなければなりません。
引受シンジケート団
引受シンジケート団とは、発行金額が大きくなると1つの証券会社が引き受けるのは困難であるため、いくつかの金融機関や証券会社が集って共同で引き受けを行う団体のことをいいます。引受シンジケート団は、主に銀行が中心となって結成し、国債、地方債などの公共債を引き受けます。
(4)募集/売り出し業務
募集/売り出し業務とは、新規公開にかかわる有価証券の募集および売り出しの取扱いを行う業務のことです。主に発行市場にかかわる業務です。
募集/売り出し業務では、証券会社は発行会社からの委託を受けて販売するだけです。引受業務と違って売れ残っても引き取りを行わないため、証券会社がリスクを負うことはありません。
募集
募集という用語は、新しく発行する株式や公社債を募集する時に使います。
発行会社に代わって有価証券を引き取った業者(アンダーライター業務)の下請けとなって、募集を行います。
売り出し
売り出しという用語は、大株主がすでに発行してある証券を売却する時に使います。
≪証券会社のその他の業務≫
証券会社には、4つの業務のほかに、保護預り業務、累積投資業務、投資顧問業務、代理事務業務、公共債担保貸付、金地金の販売、CD/CPの流通取扱い、海外CP/CDの販売などの業務が認められています。
2.金融制度改革と証券会社
≪銀行業と証券業の棲み分け≫
日本の金融制度は、銀行業と証券業を分離する専業・分業体制を基盤として発展してきました。間接金融を担う銀行と、直接金融を担う証券という棲み分けがなされました。この専業・分業を規定したものが、証券取引法65条です。
◆銀行業界
日本の経済は、戦後、間接金融制度に支えられて発展しています。銀行を中心として産業に資金を供給する産業育成策は、高度経済成長に大きく貢献しました。
この金融制度を背景に、日本経済は高度成長を遂げました。この間、銀行の業績も順調に推移していました。
ところが、1970年代末頃から、経済は高度成長時代から低成長時代を迎えました。金融緩和や金利低下を反映して、企業の銀行離れが進行したため、銀行の業績も伸び悩みを見せはじめたのです。
しかし、証券分野のビジネスチャンスは、証券取引法65条が壁となり手が出せません。こうした事態に銀行界から不満の声が上がり、国債の窓口販売やディーリングを銀行に認める規制緩和がはじまりました。
◆証券業界
証券業界は、株式や不動産ブームの追い風を受けて一時急成長を果しますが、海外と比べて株式売買委託手数料が高い等の問題から、取引が海外へ逃げていくようになりました。その結果、東京証券取引所の証券取引量は、バブル全盛期の1989(平成元)年から1995(平成7)年までに、3分の1の水準にまで落ち込んでしまいました。
事態を重く見た政府は、1997(平成9)年末から金融市場の自由化(規制緩和)を急ピッチで推進しています。
銀行と同じように公共料金の自動振替ができる証券総合口座の解禁、株式手数料の完全自由化、有価証券取引税の撤廃、上場株式の取引所外取引の解禁(証券取引所を通さずに上場株を売買する)等の改革が進められました。
現在、銀行と証券の壁がなくなろうとしています。証券会社でも銀行業務が営めるように改革が進んでいます。
金融自由化の流れは、日本の金融が間接金融から直接金融へ移行していることを示唆しています。この過程の中で金融業界の大再編が進行しています。
まとめ
証券会社の4つの業務
委託売買業務…委託を受けて有価証券の売買を行う
自己売買業務…自社の資金で、自社の利益のために有価証券を売買する
引受業務…発行会社に代わって有価証券を引き取る
募集/売り出し業務…有価証券の募集および売り出しの取扱いを行う
問題と解答
- 証券業務は、委託売買業務、自己売買業務、引受業務、募集/売出し業務の4つに分けられます。「委託売買」と「自己売買」は●●市場の業務、「引受け」と「募集/売出し」は●●市場の業務です。
- 投資家から委託を受けて有価証券の売買を行う業務を●●売買業務といいます。証券会社は投資家の注文を仲介するだけで、責任は●●家が負います。
- 証券会社が自社の資金で、自社の利益のために有価証券を売買する業務を●●売買業務といいます。売買により生じる損益の責任は、●●会社にあります。
- 発行会社に代わって有価証券を引き取る業務を●●業務といいます。証券会社は、新株式や新債券をいったん買取り、広く投資家へ販売します。全部売り切ることができない場合、●●会社が引き取ります。
- 有価証券の発行金額が大きい場合、いくつかの●●会社が集まって、共同で引受けを行います。これを●●●ケート団といいます。
- 有価証券の募集および売り出しの取扱いを行う業務を●●/●●●し業務といいます。発行者から委託を受けて販売するだけで、売れ残っても引き取りは行いません。
- 「●●」という用語は、新しく発行する株式や公社債を募集する時に使います。「●●●し」は、大株主がすでに発行してある証券を売却する時に使います。
- 証券会社は、付随業務として●●預り業務、累積投資業務、投資顧問業、代理●●業務、公共債担保貸付、金地金の販売、CD/CPの流通取扱い、海外CP/CDの販売等の業務が認められています。
- 保護預りとは、投資家から有価証券を預かって保管する業務です。●●投資業務とは、投資家から小額の資金を継続的に受け入れて、特定の有価証券投資にあてることです。投資●●業とは、金融資産への投資に関して助言を行う業務です。
- 代理事務業務とは、債券や投資信託の振込金の受入れ、利子・分配金・元本などの支払事務、株式の名義書換え事務の代行業務です。●●は譲渡性預金のことで、●●はコマーシャルペーパーのことです。
(答え)流通、発行
(答え)委託、投資
(答え)自己、証券
(答え)引受、証券
(答え)証券、シンジ
(答え)募集、売り出
(答え)募集、売り出
(答え)保護、事務
(答え)累積、顧問
(答え)CD、CP