金融大学(金融大学講座)

株式取引入門講座 第5回 取引の実際

1.株式の魅力と危険

 

株式投資の魅力には、配当金や株主優待等の特典が考えられますが、一番の魅力は、株価が値上がりした場合の売却益です。投資金額の数倍になることもめずらしいことではありません。
しかし、株価が値上がりするという保証はなく、会社が倒産すると、出資金の全額を失う危険もはらんでいます。
株式は、株式会社への出資金で、貸付金とは異なります。株式には、出資金の返済日というものはなく、会社が解散しない限りお金は戻ってきません。株式を換金するには、株式市場で株式を他の投資家に売却する以外に方法はありません。

 

≪株式の流通市場≫

 

株式のうち、一般に株主を募集している株式を公開株式といいます。この公開株式を売買しあう市場を流通市場と呼んでいます。流通市場には、証券取引所で売買が行われる取引所市場と、証券会社の店頭で売買が行われる店頭市場があります。

 

◆取引所市場

 

取引所市場は、企業規模、株式の流通量、株主数等の上場審査基準にパスした株式を売買する市場です。上場審査基準にパスした株式を上場株と呼んでいます。一言でいえば、一流会社の株式です。
取引所取引は、注文が一箇所に集められ、取引情報が参加者全員にわかるように運営されています。取引所取引といっても、取引の注文は、証券会社の店頭を通して行います。

 

◆店頭市場

 

店頭市場は、取引所に上場されていない株式を売買する市場です。取引は、個々の証券会社が注文を出し合って行う相対(あいたい)方式です。
現在、店頭取引は、日本証券業協会が運営管理するジャスダック(JASDAQ)市場で行われています。ジャスダック市場は、中小企業・中堅企業・ベンチャー企業に力をいれている店頭株式市場です。

 

取引の実際

 

 

 

2.株式売買の手順

 

個人が株式投資を始めるには、証券会社を利用する必要があります。証券市場で株式を取引できるのは、会員の証券会社に限られているからです。投資家は、株式売買の注文を証券会社に委託して行います。

 

≪取引口座の開設≫

 

株式取引を始めるには、売買注文を委託する証券会社を選び、その証券会社に取引口座を開設します。

 

◆申込方法

 

取引口座を開設するには、(1)証券会社の本支店に行って申込む、(2)申込書を郵送する、の2つの方法があります。郵送の場合には、書類のやりとりに時間がかかるため、口座開設までに数日を要します。また、インターネットで申込むことはできません。

 

◆必要書類

 

申込時には、(1)取引口座開設の申込書、(2)本人確認書類(運転免許証、健康保険証、パスポートなど)、(3)印鑑が必要です。

 

取引口座開設の申込書は、証券会社の本支店で入手するか、電話またはインターネットで取り寄せることができます。これに必要事項(住所、氏名など)を記載し、署名・捺印のうえ、本人確認書類を添付して届出を行います。
※20歳未満の未成年(既婚者を除く)の場合には、保護者の同意書等が必要となります。

 

取引の実際

 

◆口座開設後

 

取引口座が開設されると、証券会社から申込者の自宅あてに、案内書や必要書類などが郵送されます。

 

投資家は、注文を行う前までに、取引の概算代金を入金しておきます。また、株式を売りたい場合には、株券を証券会社に預けておきます。

 

≪注文方法≫

 

株式の売買注文は、従来、電話で行われてきましたが、最近ではオンラインでの注文が増えてきています。

 

注文では、(1)銘柄名と銘柄コード、(2)株数、(3)売り・買いの別、(4)値段(成行注文、指値注文)、(5)注文の有効期限(本日限り、今週限りなど)などの指示を行います。

 

取引の実際

 

◆銘柄名

 

銘柄名や銘柄コードは、会社四季報に掲載されています。また、インターネットでも検索できます。

 

◆株数

 

売買単位は、銘柄ごとに決まっています。銘柄ごとに決められている最低売買単位のことを、単元株といいます。売買注文は、単元株の整数倍で行われます。

 

東京証券取引所の銘柄の多くは、100株単位か1000株単位で取引されています。例えば、ソニーは100株単位で取引されているので、株価が1万円である場合には、取引に最低100万円の資金が必要となります。

 

参考 : 単元株

 

◆値段

 

注文の出し方には、(1)成行注文、(2)指値注文 の2通りの方法があります。

 

(1)成行注文(なりゆきちゅうもん)

 

成行注文とは、売買の希望値段を指定しない注文方法です。売買の銘柄と株数だけを指定して、相場の成り行きにまかせます。確実に売買できますが、不利(損)な値段で売買してしまうことがあります。店頭(ジャスダック)銘柄の場合は、成行注文はできません。

 

(2)指値注文(さしねちゅうもん)

 

指値注文とは、売買の希望値段を指定する注文方法です。注文時には、期日を指定します。株価が変動している場合には、売買できないことがあります。

 

取引の実際

 

≪取引報告書の内容確認≫

 

売買が成立すると、証券会社から「取引報告書」が郵送されてきます。投資家は、記載内容に誤りがないか、取引報告書をよく確認する必要があります。

 

≪売買代金の清算≫

 

株式の売買が成立することを、約定(やくじょう)といいます。株式の売買が成立した日のことを、約定日(やくじょうび)といいます。

 

取引の決済は、決済日(約定からその日を含めて4営業日目)に、買付代金と株券の交換を行います。これを普通取引と呼んでいます。

 

株式の買付代金は、決済日(4営業日目)までに入金します(新規取引など、事前の入金が必要な場合もあります)。

 

取引の実際

 

株式の購入者への株券の受渡しは、約1週間かかります。

 

≪株券の保管方法≫

 

買付代金の清算が済むと、証券会社から株券を受け取ります。購入した株券の保管方法には、(1)保護預り、(2)保管振替制度、(3)自己保管(タンス株) があります。

 

◆保護預り

 

保護預りは、証券会社が単に株券を預かる方法です。この場合には、本人への名義書換の手続きが必要です。

 

◆保管振替制度

 

保管振替制度は、株券を(財)証券保管振替機構に集めて、一括管理する方法です。この場合には、本人への名義書換の手続きは不要です。集められた株券は、すべて機構名に書き換えられます。購入者の名前は、実質的な株主として、証券会社から機構を通じて発行会社へ報告されます。配当金などは、購入者のもとへ送られる仕組みになっています。

 

◆自己保管(タンス株)

 

自己保管(タンス株)は、自分の手元に株券を置く方法です。この場合には、本人への名義書換の手続きが必要です。

 

取引の実際

 

・名義書換
株券の名義書換とは、発行会社の株主名簿に名前を記載してもらうことです。株主名簿に名前を記載されないと、配当金や増資新株の割当ては受けられません。名義書換の手続きは証券会社が代行します。

 

≪取引費用≫

 

証券取引の売買手数料は、1999(平成11)年10月に自由化され、各証券会社が自由に設定できるようになりました。対面販売では1割弱しかできなかった手数料の値下げも、オンライン取引では大幅な値下げが可能となりました。

 

このほか、売買手数料には5%の消費税が徴収されます。また、証券会社や取引内容によっても異なりますが、口座管理料がかかる場合もあります。

 

≪税金≫

 

◆売却益に対する税金

 

売却益には、税金がかかります。これまでの課税方式は、申告分離課税と源泉分離課税の選択制でしたが、2003(平成15)年1月1日から申告分離課税に一本化され、上場株式等の税率は20%に軽減されました。

 

ただし、2003(平成15)年1月1日から2007(平成19)年12月31日までの5年間は、上場株式等に優遇税率が適用されるため、税率は10%となります。

 

取引の実際

 

また、特定口座制度を利用することによって、確定申告の手間を省くことができます。特定口座制度とは、投資家が証券会社に特定口座を開設することで、投資家の納税事務を証券会社が代行する制度です。2003(平成15)年1月1日から導入されました。

 

参考 : 証券税制改正(平成15年度税制改正大綱)

 

≪申告分離課税と源泉分離課税≫

 

2002(平成14)年12月末まで、課税方式は、申告分離課税と源泉分離課税の選択制で行われていました。申告分離課税とは、売却益の26%(所得税20%、住民税6%)を、確定申告を通じて納税する方法です。一方、源泉分離課税とは、売却代金の5.25%を売却益とみなし、この20%を税額とする方法で、売却代金の1.05%(0.0525×0.2=0.0105)が源泉徴収されます。

 

◆配当金に対する税金

 

配当金に対する税金は、原則、総合課税(源泉徴収20%)です。ただし、1銘柄あたり年10万円以下の配当収入であれば、申告不要(源泉徴収20%)で、住民税も非課税です。
※総合課税とは、いろいろな所得を総合して計算する課税方法です。
※源泉徴収とは、源泉税の一部を前払いする形で、配当金を受取る時点で差し引かれる課税方法です。源泉徴収による税金の払い過ぎや不足分については、確定申告によって清算します。

 

ただし、2003(平成15)年4月1日から2008(平成20)年3月31日までの5年間は、上場株式等の配当課税(大口株主を除く)の源泉徴収税率は10%、2008(平成20)年4月1日以降は源泉徴収税率は20%となります。

 

取引の実際

 

参考 : 証券税制改正(平成15年度税制改正大綱)

 

◆有価証券取引税

 

有価証券取引税は、1953(昭和28)年に制定された、有価証券の譲渡者に課される税金です。株式を売却する際に有価証券取引税がかかっていましたが、1999(平成11)年3月31日に廃止されました。

 

 

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まとめ

株式の流通市場
  取引所市場…上場審査基準にパスした上場株を売買する
  店頭市場…取引所へ上場されていない株式を売買する⇒ジャスダック市場
株式の注文の出し方
  指値注文…売買の希望値段を指定する注文方法
  成行注文…売買の銘柄と株数だけを指定し、値段を指定しない注文
株券の保管方法
  保護預り…証券会社が単に株券を預かる方法
  保管振替制度…株券を(財)証券保管振替機構に集めて、一括管理する方法
  自己保管(タンス株)…自分の手元に株券を置く方法
税金
  売却益に対する税金…優遇税率10%(2003年1月1日~2007年12月31日)
  配当金に対する税金…源泉徴収税率10%(2003年4月1日~2008年3月31日)

 

 

問題と解答
  1. 一般に株主を募集している株式を●●株式といいます。この公開株式を売買しあう市場を流通市場と呼んでいます。流通市場には、証券取引所で売買が行われる●●●市場と、証券会社の店頭で売買が行われる●●市場があります。
  2. (答え)公開、取引所、店頭

  3. ●●●市場は、上場審査基準にパスした株式を売買する市場です。上場審査基準にパスした株式を●●株と呼んでいます。取引所取引は、注文が一箇所に集められ、取引情報が参加者全員にわかるように運営されています。
  4. (答え)取引所、上場

  5. 店頭市場は、取引所に上場されていない株式を売買する市場です。取引は、個々の証券会社が注文を出し合って行う●●方式です。 店頭取引は、日本証券業協会が運営管理する●●●ダック(JASDAQ)市場で行われています。
  6. (答え)相対、ジャス

  7. 売買単位は、銘柄ごとに決まっています。銘柄ごとに決められている最低売買単位のことを、●●株といいます。売買注文は、単元株の●●倍で行われます。
  8. (答え)単元、整数

  9. ●●注文とは、売買の希望値段を指定しない注文方法です。一方、●●注文とは、売買の希望値段を指定する注文方法です。
  10. (答え)成行、指値

  11. 株式の売買が成立することを、●●といいます。株式の売買が成立した日のことを、約定日といいます。 取引の決済は、決済日(約定からその日を含めて●営業日目)に、買付代金と株券の交換を行います。これを●●取引と呼んでいます。
  12. (答え)約定、4、普通

  13. ●●振替制度は、株券を(財)証券保管振替機構に集めて、一括管理する方法です。本人への●●書換の手続きは不要で、集められた株券はすべて機構名に書き換えられます。
  14. (答え)保管、名義

  15. 株券の名義●●とは、発行会社の株主名簿に名前を記載してもらうことです。●●名簿に名前を記載されないと、配当金や増資新株の割当ては受けられません。
  16. (答え)書換、株主

  17. 売却益には、税金がかかります。これまでの課税方式は、申告分離課税と●●分離課税の選択制でしたが、2003年1月1日から●●分離課税に一本化されました。
  18. (答え)源泉、申告

  19. 特定口座制度とは、投資家が証券会社に●●口座を開設することで、投資家の納税事務を●●会社が代行する制度です。
  20. (答え)特定、証券

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