オプション取引入門講座 第7回 オプション戦略
講師:有馬秀次
1.オプション戦略の基本パターン
オプションを満期日まで保有する場合の投資目的は、いかにして満期日に最大の利益をあげられるポジションを構築するか、ということにあります。オプション戦略の基本パターンは、コールの買い、コールの売り、プットの買い、プットの売りの4つからなっています。この基本パターンを組み合わせることで、いろいろな戦略パターンが編み出されています。
ロングコール(コールの買い)
相場の上昇(ドル高)を予想しているが、万一予想がはずれた場合に損失を限定する戦略。
合成ロングコール=ロングプット+ロング
通貨オプションを例にとると、ドル高を予想してドルコールオプションを購入しておく戦略です。満期日の為替相場がドル高になればなるほど、オプションを行使して得られる利益が多くなるポジションです。
この戦略は、現物の買い持ち(ロングポジション)とロングプットから合成できます。例えば、株式や債券を保有していて先行き相場が下落しそうなときに、プットを購入してヘッジした場合の損益パターンです。このヘッジ目的で作った合成ロングコールを特に「プロテクティブプット」と呼んでいます。これは、強気の戦略(ロングポジション)から、やや弱気に相場感を変えた場合にとられるポジションです。
ショートコール(コールの売り)
相場が弱含みであると確信しているが、それほど大きな相場の下落もないと思う場合の戦略。
合成ショートコール=ショートプット+ショート
コールオプションを売ってプレミアムを受け取り、投資効率をあげようという戦略ですが、予想がはずれて相場が上昇した場合には、大きな損失を出す危険性を持っています。
この戦略は、ショートプットとショートポジション(現物の売り持ち)から合成できます。通貨オプションを例にとると、ゆるやかなドル安含み、安定相場予想の場合にとられるポジションです。
ロングプット(プットの買い)
相場が弱くなっていくと予想しているが、万一予想がはずれた場合に損失を限定する戦略。
合成ロングプット=ロングコール+ショート
この戦略は、ロングコールとショートポジションから合成できます。通貨オプションを例にとると、ドル安を予想しているが、ドル高方向に為替が動くことにも少し不安を残している場合にとられるポジションです。
ショートプット(プットの売り)
相場の先行きを強含みであると確信しているが、それほど大きな価格の上昇もないと思う場合の戦略。
合成ショートプット=ショートコール+ロング
プットオプションを売ってプレミアムを受け取り、投資効率をあげようという戦略ですが、相場が下落し始めた場合には、大きな損失を出す危険性を持っています。
この戦略は、ロングポジションとショートコールから合成できます。通貨オプションを例にとると、ゆるやかなドル高含み、安定相場予想の場合にとられるポジションです。例えば、株式や債券を保有していて先行き相場が停滞しそうなとき、コールを売却して投資利回りをあげるために利用されます。この場合の合成ポジションを特に「カバードコール」と呼んでいます。
2.コンビネーション取引
オプションを組み合わせる複合パターンには、種類の違うオプションを組み合わせる「コンビネーション取引」と、同種類のオプションを組み合わせる「スプレッド取引」があります。
コンビネーション取引は、コールの買いとプットの買い、あるいは、コールの売りとプットの売りを組み合わせる複合パターンです。相場の方向性に関係なく、相場が変動するかどうかを予想して行う戦略です。代表的な戦略としてストラドル、ストラングルがあります。相場が変動するほど利益があがるロングストラドル、ロングストラングルと、相場が安定するほど利益が確保されるショートストラドル、ショートストラングルが覚えておきたいパターンです。オプションの特徴が最もよく表われている戦略です。
ロングストラドル(ストラドルの買い)
同じ行使価格のコールとプットを1単位ずつ購入するもの。
ロングストラドル=ロングコール+ロングプット
相場が上昇した場合にはコールオプションを行使し、相場が下落した場合にはプットオプションを行使することで利益が得られるという戦略です。相場が動きさえすれば利益が得られるポジションですが、プレミアム料を約2倍(コールのプレミアム料と、プットのプレミアム料)支払うのが欠点です。支払プレミアム以上に相場が大きく変動しないと、利益は得られません。どちらか一方のオプションを行使しても、もう一方のオプションの権利は残っています。相場が大きく反転すれば、このオプションを行使して利益を積み上げることができます。
この戦略は、相場が上昇するか下落するかはっきりわからないが、とにかく相場は大きく動きそうだと予想される場合にとられます。
ショートストラドル(ストラドルの売り)
同じ行使価格のコールとプットを1単位ずつ売却するもの。
ショートストラドル=ショートコール+ショートプット
相場が安定していると予想される場合にとられる戦略です。プレミアム料を約2倍(コールのプレミアム料と、プットのプレミアム料)受け取れるのが魅力です。
どちらか一方のオプションが行使されても、もう一方のオプションの権利は残っています。相場が大きく反転すれば、このオプションが行使されて損失が積み上がっていきます。
相場が予想どおり小動きの場合には利益が得られるポジションですが、予想がはずれた場合にはリスクが無限に大きくなる可能性があります。
ロングストラングル(ストラングルの買い)
アウト・オブ・ザ・マネーのコールとプットを1単位ずつ購入するもの。
〔コール(高い行使価格)+プット(安い行使価格)〕の買い
ストラドル以上に相場の大変動が予想される場合にとられる戦略です。行使価格の異なるコールとプットを1単位ずつ購入するものです。通常より、「行使価格が高いコールオプション」、「行使価格が安いプットオプション」をアウト・オブ・ザ・マネーのオプションといいます。現時点でオプションを行使しても利益が出ない状態のオプションであるため、プレミアム料が安くなります。ストラドルよりプレミアム料が安くなりますが、オプションを行使できる確率も低くなります。
ショートストラングル(ストラングルの売り)
アウト・オブ・ザ・マネーのコールとプットを同時に1単位ずつ売却するもの。
〔コール(高い行使価格)+プット(安い行使価格)〕の売り
ロングストラングルの逆で、受取プレミアム料はショートストラドルより少ないですが、相場の変動がかなり大きくても収益を保てるポジションです。
3.スプレッド取引
スプレッド取引(同種類のオプションの組み合わせ)は、損益をある範囲内に限定させたい場合の戦略です。スプレッド取引の中で同じ期間のオプションを組み合わせるものを「バーティカルスプレッド」、期間の違うオプションを組み合わせるものを「ホリゾンタルスプレッド」と呼んでいます。
≪バーティカルスプレッド(垂直型)≫
バーティカルスプレッド(同じ期間のオプションの組み合わせ)は、同じ期間で行使価格の異なるコールの売りとコールの買い、あるいは、プットの売りとプットの買いを組み合わせる取引です。この戦略は、リスクを一定範囲内に限定して取引したい場合にとられます。代表的な戦略として、ブルスプレッド、ベアスプレッド、バタフライ、コンドルなどがあります。「バタフライ(蝶)スプレッド」は、ストラドルの損益パターンを限定した形で行う取引で、リスクの軽減を行う戦略です。
ブルスプレッド(強気のスプレッド)
行使価格の高いオプションの売りと、行使価格の低いオプションの買いを1単位(同数量)ずつ行うもの。
ブルコールスプレッド=コール(安い行使価格)の買い+コール(高い行使価格)の売り
ブルプットスプレッド=プット(安い行使価格)の買い+プット(高い行使価格)売り
相場の見通しが横ばいで、やや強気(相場高)見通しの場合にに適したポジションです。
コール、プットのどちらでもスプレッドを組むことができます。コールを組み合わせるものをブルコールスプレッド、プットを組み合わせるものをブルプットスプレッドと呼んでいます。プレミアム料は、オプションの買いにより「支払うプレミアム料」と、オプションの売りにより「受け取るプレミアム料」の差額となります。
ブルコールの場合には差引きされたプレミアムは支払いとなりますが、ブルプットの場合には差引きされたプレミアムは受取りとなります。損益分岐点は、ブルコールの場合には低い方の行使価格に差引支払プレミアムを足したところとなりますが、ブルプットの場合には高い方の行使価格から差引受取プレミアムを差し引いたところとなります。
コールオプション(行使価格135円、プレミアム10円)の買いと、コールオプション(行使価格145円、プレミアム5円)の売りのブルコールを作ると、当初、-5円(-10円+5円=-5円)のプレミアム料が差し引き支払われます。損益図は140円(135円+5円=140円)を損益分岐点として、相場が145円よりドル高に推移すると利益が一定(5円)に限定され、相場が135円よりドル安に推移すると損失が一定(-5円)に限定される損益パターンとなります。
ベアスプレッド(弱気のスプレッド)
行使価格の低いオプションの売りと、行使価格の高いオプションの買いを1単位(同数量)ずつ行うもの。
ベアコールスプレッド=コール(高い行使価格)の買い+コール(安い行使価格)の売り
ベアプットスプレッド=プット(高い行使価格)の買い+プット(安い行使価格)売り
相場の見通しが横ばいで、やや弱気(ドル安)見通しの場合に適したポジションです。
ブルスプレッドの逆の組み合わせです。コールを組み合わせるものをベアコールスプレッド、プットを組み合わせるものをベアプットスプレッドと呼んでいます。
プレミアム料は、ベアコールの場合には差引きされたプレミアムは受取りとなりますが、ベアプットの場合には差引きされたプレミアムは支払いとなります。
損益分岐点は、ベアコールの場合には低い方の行使価格に差引受取プレミアムを足したところとなりますが、ベアプットの場合には高い方の行使価格から差引支払プレミアムを差し引いたところとなります。
コールオプション(行使価格135円、プレミアム10円)の売りと、コールオプション(行使価格145円、プレミアム5円)の買いのベアコールを作ると、当初、5円(10円-5円=+5円)のプレミアム料が差し引き受け取られます。損益図は140円(135円+5円=140円)を損益分岐点として、相場が145円よりドル高に推移すると損失が一定(-5円)に限定され、相場が135円よりドル安に推移すると利益が一定(5円)に限定される損益パターンとなります。損益が一定の範囲内に限定されるのは、ブルスプレッドと同じです。
ロングバタフライ
行使価格の低いオプションと高いオプションを1単位ずつ買い、中間値のオプションを2単位売る取引の組み合わせ。
(安い行使価格+高い行使価格)の買い+(中間の行使価格)の売り×2単位
ショートストラドルと同様、相場の安定を期待する戦略です。予想がはずれて相場が大きく変動した場合のリスクを限定する取引ですが、ショートストラドルに比べて最大利益は小さくなります。ショートストラドルの損益図のリスク部分を限定させた損益パターンとなります。
コール、プットのどちらでもバタフライを組むことができます。
コールバタフライ=コール(安い行使価格)の買い+コール(高い行使価格)の買い+コール(中間の行使価格)の売り×2単位 ⇒プレミアム支払い
プットバタフライ=プット(安い行使価格)の買い+プット(高い行使価格)の買い+プット(中間の行使価格)の売り×2単位 ⇒プレミアム支払い
※アト・ザ・マネーから等距離にあるイン・ザ・マネーとアウト・オブ・ザ・マネーのプレミアム合計は、2倍したアト・ザ・マネーのプレミアムより若干大きくなることが知られています。
支払…(ITM+OTM)のプレミアム > 受取…ATMのプレミアム×2
コールバタフライは、行使価格が100円と120円のコールオプションを1単位ずつ買い、行使価格110円のコールオプションを2単位売るという取引です。
プットバタフライは、行使価格が100円と120円のプットオプションを1単位ずつ買い、行使価格110円のプットオプションを2単位売るという取引です。当初、若干のプレミアムの支払いとなります。
ロングバタフライの損益分岐点は、低い方の行使価格に差引プレミアムを足したところ、あるいは、高い方の行使価格から差引プレミアムを引いたところとなります。
ショートバタフライ
行使価格の低いオプションと高いオプションを1単位ずつ売り、中間値のオプションを2単位買う取引の組み合わせ。
(安い行使価格+高い行使価格)の売り+(中間の行使価格)の買い×2単位
ロングストラドルと同様、相場の大変動を期待する戦略です。予想がはずれて相場が安定した場合の最大損失を小さくしようとする取引です。ロングストラドルに比べて、相場の小幅の変動でも利益が得られる代わりに、相場が変動した場合に得られる利益が限定されます。ロングストラドルの損益図の利益部分を限定した損益パターンとなります。
コール、プットのどちらでもバタフライを組むことができます。
コールバタフライ=コール(安い行使価格)の売り+コール(高い行使価格)の売り+コール(中間の行使価格)の買い×2単位 ⇒プレミアム受取り
プットバタフライ=プット(安い行使価格)の売り+プット(高い行使価格)の売り+プット(中間の行使価格)の買い×2単位 ⇒プレミアム受取り
※アト・ザ・マネーから等距離にあるイン・ザ・マネーとアウト・オブ・ザ・マネーのプレミアム合計は、2倍したアト・ザ・マネーのプレミアムより若干大きくなることが知られています。
受取…(ITM+OTM)のプレミアム > 支払…ATMのプレミアム×2
コールバタフライは、行使価格が100円と120円のコールオプションを1単位ずつ売り、行使価格110円のコールオプションを2単位買うという取引です。
プットバタフライは、行使価格が100円と120円のプットオプションを1単位ずつ売り、行使価格110円のプットオプションを2単位買うという取引です。当初、若干のプレミアムの受取りとなります。
ショートバタフライの損益分岐点は、低い方の行使価格に差引プレミアムを足したところ、あるいは、高い方の行使価格から差引プレミアムを引いたところとなります。
バタフライと似た戦略に、「コンドル」と呼ばれる取引があります。ストラングル戦略の損益を限定して行う取引で、ストラングルの売りと買いから合成される戦略パターンです。
≪ホリゾンタルスプレッド(水平型)≫
ホリゾンタルスプレッド(期間の異なるオプションの組み合わせ)には、行使価格の同じものを組み合わせる「タイムスプレッド」と、行使価格の違うものを組み合わせる「ダイアゴナルスプレッド」の2種類があります。
タイムスプレッド(カレンダースプレッド)
同一行使価格の期間の違うオプションを組み合わせるもの。
オプションのプレミアムは、通常、期間が短いものほど割高になっています。例えば、期間3カ月のオプションのプレミアム料が1ドルにつき3円であった場合、期間6カ月のオプションのプレミアム料は、2倍の6円より安くなっています。このオプションの時間価値の差に着目して、期間が短いオプションを売り(プレミアムを受け取る)、期間の長いオプションを買う(プレミアムを支払う)取引により、利益を得ようとする取引です。当初、プレミアムは差し引き支払われます。期間の短いオプションの時間価値の減少率が、期間の長いオプションの時間価値の減少率より大きいことを利用して行う取引です。
ダイアゴナルスプレッド(対角線)
期間と行使価格の違ったオプションのスプレッド取引。
期間が短く行使価格の高いオプションを売り、期間が長く行使価格の低いオプションを買う取引です。
まとめ
オプション戦略
オプションを満期日まで保有した場合を想定して、様々な戦略が編み出されている。
オプション戦略は、損益図を見ることによって容易に把握することができる。
オプション戦略の基本パターン
コールの買い、コールの売り、プットの買い、プットの売りの4つが基本パターン。
コンビネーション取引
コールとプットの買い、あるいは、コールとプットの売りを同時に行う取引。
相場の変動性を予想して行う投資戦略。
代表する戦略に、ストラドル、ストラングルがある。
スプレッド取引
コールの買いと売り、あるいは、プットの買いと売りを同時に行う取引。
損益をある範囲内に限定させたい場合の戦略。
バーティカルスプレッド(同じ期間のオプションの組み合わせ)と、ホリゾンタルスプレッド(期間の違うオプションの組み合わせ)がある。
問題と解答
- オプション戦略の基本パターン(コールの●●、コールの売り、プットの買い、●●●の売り)を組み合わせることで、いろいろな戦略パターンが編み出されています。
- オプションを組み合わせる複合パターンには、種類の違うオプションを組み合わせる●●ビネーション取引と、同種類のオプションを組み合わせる●●レッド取引があります。
- コンビネーション取引は、コールの買いとプットの買い、コールの売りとプットの売りを組み合わせる複合パターンです。相場の●●性を予想して行う戦略です。代表的な戦略としてストラドル、スト●●グルがあります。
- ロングストラドルとロングストラングルは、相場が●●するほど利益があがる戦略です。ショートストラドルとショートストラングルは、相場が●●するほど利益が確保される戦略です。
- スプレッド取引は、損益をある範囲内に限定させたい場合の戦略です。スプレッド取引の中で同じ期間のオプションを組み合わせるものを●●ティカルスプレッド、期間の違うオプションを組み合わせるものを●●ゾンタルスプレッドと呼んでいます。
- バーティカルスプレッドは、同じ●●で行使価格の異なるコールの売りとコールの買い、あるいは、プットの売りとプットの買いを組み合わせる取引です。この戦略は、●●●を一定範囲内に限定して取引したい場合にとられます。
- スプレッド取引の代表的な戦略として、●●スプレッド、●●スプレッド、バタフライ、コンドルなどがあります。バタフライ(蝶)スプレッドは、ストラドルの損益パターンを限定した形で行う取引で、リスクの軽減を行う戦略です。
- ホリゾンタルスプレッドには、行使価格の同じものを組み合わせる●●ムスプレッドと、行使価格の違うものを組み合わせる●●アゴナルスプレッドの2種類があります。
- ロングストラドル(ストラドルの買い)は、相場が上昇した場合には●●●オプションを行使し、相場が下落した場合には●●●オプションを行使して利益が得られるという戦略です。
- ●●スプレッド(強気のスプレッド)は、●●の見通しが横ばいで、やや強気(ドル高)見通しの場合に適した戦略です。
(答え)買い、プット
(答え)コン、スプ
(答え)変動、ラン
(答え)変動、安定
(答え)バー、ホリ
(答え)期間、リスク
(答え)ブル、ベア
(答え)タイ、ダイ
(答え)コール、プット
(答え)ブル、相場