オプション取引入門講座 第5回 損益図の見方
講師:有馬秀次
1.損益図とは何か
損益図とは、将来の市場価格によって損益状態がどのように変わるかをグラフ表示したものです。横軸に決済日の市場価格を、縦軸に損益を目盛りにとったグラフです。
金融商品の損益は、「買い」と「売り」がセットになって確定します。例えば、100円で買った株式を110円で売れば10円の利益が確定します。120円で売れば20円の利益が確定します。この損益を市場価格ごとにいくらになるかをグラフで表示したものが損益図です。
2.損益図の見方
株式を100円で買った場合の損益図を見てみましょう。横軸(x軸)に市場価格を、縦軸(y軸)に損益を目盛りにとっています。
例えば、市場価格が110円になった時の損益を見るには、市場価格110円のところの垂線が損益グラフと交わる点Aを見つけます。A点から縦軸の目盛りを読めば、損益は10円であることが読み取れます。
逆に、損益が20円となる場合の市場価格を見るには、損益20円のところの横軸との平行線が損益グラフと交わる点Bを見つけます。B点から横軸の目盛りを読めば、市場価格は120円であることが読み取れます。
損益図を使うと、損益パターンがイメージ化できるので、複合商品の損益パターンを分析する場合などに大変役立ちます。
3.損益図の基本パターン
金融商品の売買の結果生じる債権や債務の取引残高のことを、持ち高(ポジション)と呼んでいます。ポジションには、「買越し状態」、「売越し状態」、「貸借なしの状態」 の3つの状態があります。金融商品の買越し状態を買い持ち(ロングポジション)、売越し状態を売り持ち(ショートポジション)、貸借なしの状態をスクエアと呼んでいます。
ロングポジションは、将来時点において金融商品を売却する予定にある状態です。したがって、金融商品の市場価格(相場)が上がれば、利益(売値>買値)が発生し、市場価格が下がれば損失(売値<買値)が発生する状態を意味します。
逆に、ショートポジションは、将来時点において金融商品を購入する予定にある状態です。したがって、金融商品の市場価格が上がれば、損失(売値<買値)が発生し、市場価格が下がれば利益(売値>買値)が発生する状態を意味します。
株式、債券、為替、先渡取引、先物取引のロング、ショート、スクエアの損益パターンは同じです。
ここでは、単にロングポジション、ショートポジションという場合、現物及び先物取引の持ち高を意味するものとします。
≪ロングとショートの損益パターン≫
ロングポジション(現物、先物の買い持ち)
これは、金融商品(株式、債券、外貨預金、買い予約)を買い持ちにしている場合の損益パターンです。買い持ちは、右上がりの直線になります。
【事例 株式を買い持ちにした場合】
株式を1株=100円で購入している場合の損益パターンです。斜め45度右上がりの直線となります。
株式を売却するときの株価が1株=100円なら損益はゼロとなります。相場が上がって110円の株高なら10円の利益(110-100=10)、逆に相場が下がって90円の株安なら10円の損失(90-100=-10)となります。
ロングポジションは、株式購入時の株価(1株=100円)から、相場が1円上がることに1円ずつ利益が増加し、逆に相場が1円下がるごとに1円ずつ損失が増加する損益パターンを表わします。
ショートポジション(現物、先物の売り持ち)
これは、金融商品(株式の空売り、外貨建てローン、輸入債務、売り予約)を売り持ちにしている場合の損益パターンです。
ロングポジションと対照的な左上がりの直線です。
【事例 株式を売り持ちにした場合】
株式を1株=100円で売却している場合の損益パターンです。斜め45度左上がりの直線となります。貸し株市場から株式を借りてきて売却することを空売りといいます。借りた株を返すために市場で株式を買い戻さなければならない状態にあります。
上記事例は、株式を1株=100円で空売りした場合のポジションです。この株式を買い戻す時の相場(値段)が、1株=100円なら損益はゼロとなります。相場が上がって110円の株高なら10円の損失(100-110=-10)、相場が下がって90円の株安なら10円の利益(100-90=10)となります。
ショートポジションは、株式売却時の株価(1株=100円)から、相場が1円上がることに1円ずつ損失が増加し、逆に相場が1円下がるごとに1円ずつ利益が増加する損益パターンを表わします。
≪損益が確定している取引の損益図≫
スクエア
損益が確定していてリスクがないポジションをスクエアと呼んでいます。損益線は、横軸に平行な直線となります。ヘッジ取引により市場リスクが回避されている場合の損益線です。為替リスクのない円建て取引が該当します。
【事例 輸出債権に予約が付いている場合】
予約付の輸出債権は、為替リスクのない状態になっています。
例えば、輸出製品(原価1ドル=100円)を1ドル=110円で売る予約をすると、1ドルあたり10円の利益が確定します。これをグラフにすると、利益10円のところで横軸に平行な直線となります。
このグラフは、為替相場の水準にかかわらず、損益が一定であることを示す損益線です。
※市場リスクとは、相場の変動により被る損害の可能性のことで、為替であれば為替レート、株式であれば株価、債券であれば債券価格の変動のことを指します。
≪オプション取引の損益図≫
オプションの損益図には、基本となる特定のパターンがあります。 オプション損益の基本型には、「コールの買い」、「コールの売り」、「プットの買い」、「プットの売り」の4つのパターンがあります。
ここでは、「オプションの買い」を「ロングオプション」、「オプションの売り」を「ショートオプション」と呼ぶことにします。「コールオプションの買い」であれば、「ロングコール」、「コールオプションの売り」であれば、「ショートコール」と呼ぶことにします。
ロングコール
コールオプションを買い持ち(ロングコール)にしている場合の損益図です。
【事例 通貨オプションの場合】
コールオプションを行使価格1ドル=120円、プレミアム3円で購入するとします。
満期日の為替レートが1ドル=120円よりドル高なら、オプションを行使して、行使価格との差額からプレミアムを差し引いた金額が利益となります。この為替益はドル高になるほど大きくなるので、グラフは右上がりの直線となります。
逆に、為替レートが1ドル=120円よりドル安なら、オプションを放棄して、プレミアムの3円だけが損失となります。グラフは横軸に平行な直線となり、為替レートが120円よりいくらドル安であっても、損失は3円に限定されることを示します。
ショートコール
コールオプションを売り持ち(ショートコール)にしている場合の損益図です。ロングコールの損益図を横軸に対して折返した形になります。
【事例 通貨オプションの場合】
満期日の為替レートが1ドル=120円よりドル安なら、オプションは買い手に放棄され、プレミアムの3円が利益となります。グラフは横軸に平行な直線となり、為替レートが120円よりいくらドル安であっても、3円の利益が上がることを示しています。
逆に、為替レートが1ドル=120円よりドル高なら、オプションは買い手に行使され、行使価格と市場レートの差額からプレミアムを差し引いた金額が損失となります。グラフは右下がりの直線となります。
ロングプット
プットオプションを買い持ち(ロングプット)にしている場合の損益図です。ロングコールの損益図を行使価格のところで縦軸に折返した形になります。
【事例 通貨オプションの場合】
満期日の為替レートが1ドル=120円よりドル安なら、オプションを行使して、行使価格との差額からプレミアムを差し引いた金額が利益となります。この為替益はドル安になるほど大きくなるので、グラフは左上がりの直線となります。
逆に、為替レートが1ドル=120円よりドル高なら、オプションを放棄して、プレミアムの3円だけが損失となります。グラフは横軸に平行な直線となり、為替レートが120円よりいくらドル高であっても、損失は3円に限定されることを示します。
ショートプット
プットオプションを売り持ち(ショートプット)にしている場合の損益図です。ロングプットの損益図を横軸に対して折返した形になります。
【事例 通貨オプションの場合】
満期日の為替レートが1ドル=120円よりドル安なら、オプションは買い手に行使され、行使価格と市場レートの差額からプレミアムを差し引いた金額が損失となります。グラフは左下がりの直線となります。
逆に、為替レートが1ドル=120円よりドル高なら、オプションは買い手に放棄され、プレミアムの3円が利益となります。グラフは横軸に平行な直線となり、為替レートが120円よりいくらドル高であっても、3円の利益が上がることを示します。
4.合成ポジションの損益図
オプション損益の基本パターンに現物や先物の買い(ロングポジション)と現物や先物の売り(ショートポジション)を加えることで複合化された損益パターンが合成されます。オプションや先物のポジションが組み合わされた場合の損益図を合成損益図といいます。オプションの損益図は、方眼紙上に行使価格を中心に3点の損益点を直線で結ぶことで描けます。
オプションの合成損益は、個々のオプションや先物のポジションの損益を足し合わせることで計算できます。損益のプラスとマイナスの足し算は、双方の損益を相殺して、残った分の長さを損益にします。
合成オプションは、大きく6つのパターンに分けられます。これを利用すると、市場にコールオプションだけしか取引されていない場合でも、プットオプションを合成パターンで作り出すことができます。
説明の便宜上、合成オプションを作るために利用する先物(先渡)ポジションには、オプションの行使期間と同期間の先物(先渡)取引を利用することとします。
合成コールの買いポジションは、ロングプットと先物の買い持ちポジションを合成したものです。
【事例 通貨オプションの場合】
行使価格1ドル=120円、プレミアム3円のプットオプションの買いと、先物為替を1ドル=120円で買い持ちにした場合の合成損益を考えます。
為替レートが行使価格(1ドル=120円)よりドル安に推移した場合、プットオプションは行使されて為替益が発生しますが、ロングポジションからは為替損が発生します。この為替益と為替損は、為替レートが1円動くごとに同額の1円ずつ増減します。損益を合算すると、互いに相殺されてゼロになり、支払プレミアム3円のみが一定の損失となります。これをグラフにすると、-3円(プレミアム料)のところで横軸に平行な直線となります。
一方、1ドル=120円よりドル高なら、ロングポジションはドル高へ1円動くごとに1円ずつ為替益が増加しますが、プットオプションは放棄され支払プレミアム分のみが損失となります。合計した損益線は、ロングポジションの損益線をプレミアム分だけ下方へ移動したものになります。その結果、合成された損益線は、ロングコールの損益線となります。
合成プットの買いポジションは、ロングコールと先物の売り持ちポジションを合成したものです。
【事例 通貨オプションの場合】
行使価格1ドル=120円、プレミアム3円のコールオプションの買いと、先物為替を1ドル=120円で売り持ちにした場合の合成損益を考えます。
為替レートが行使価格(1ドル=120円)よりドル安なら、ショートポジションの為替益は増加しますが、コールオプションは放棄され支払プレミアム分のみが損失となります。合計した損益線は、ショートポジションの損益線をプレミアム分だけ下方へ移動した形となります。
一方、1ドル=120円よりドル高なら、コールオプションは行使により為替益が発生しますが、ショートポジションからは為替損が発生します。この為替益と為替損は、為替レートが1円動くごとに同額の1円ずつ増減します。損益を合算すると、互いに相殺されてゼロになり、支払プレミアム3円のみが一定の損失となります。これをグラフにすると、-3円(プレミアム料)のところで横軸に平行な直線となります。その結果、合成された損益線は、ロングプットの損益線となります。
合成コールの売りポジションは、ショートプットと先物の売り持ちポジションを合成したものです。
【事例 通貨オプションの場合】
行使価格1ドル=120円、プレミアム3円のプットオプションの売りと、先物オプション物為替を1ドル=120円で売り持ちにした場合の合成損益を考えます。
為替レートが行使価格(1ドル=120円)よりドル安なら、ショートポジションは為替益が発生しますが、プットオプションは行使され為替損が発生します。損益を合算すると、互いに相殺されてゼロになり、受取プレミアム3円のみが一定の利益となります。これをグラフにすると、3円(プレミアム料)のところで横軸に平行な直線となります。
一方、1ドル=120円よりドル高なら、プットオプションは放棄され受取プレミアム分のみが収益となりますが、ショートポジションからは為替損が発生します。合計した損益線は、ショートポジションの損益線をプレミアム分だけ上方へ移動した形となります。その結果、合成された損益線は、ショートコールの損益線となります。
合成プットの売りポジションは、ショートコールと先物の買い持ちポジションを合成したものです。
【事例 通貨オプションの場合】
行使価格1ドル=120円、プレミアム3円のコールオプションの売りと、先物為替を1ドル=120円で買い持ちにした場合の合成損益を考えます。
為替レートが行使価格(1ドル=120円)よりドル安なら、コールオプションは放棄され受取プレミアム分だけが収益となりますが、ロングポジションからは為替損が発生します。合計した損益線は、ロングポジションの損益線をプレミアム分だけ上方へ平行移動させた形となります。
一方、1ドル=120円よりドル高なら、ロングポジションからは為替益が発生しますが、オプションも行使され為替損が発生します。損益を合算すると、互いに相殺されてゼロになり、受取プレミアム3円のみが一定の利益となります。これをグラフにすると、3円(プレミアム料)のところで横軸に平行な直線となります。その結果、合成された損益線は、ショートプットの損益線となります。
合成ロングのポジションは、同じ行使価格のロングコールとショートプットを合成したものです。
行使価格1ドル=120円、プレミアム3円の「コールオプションの買い」と、行使価格1ドル=120円、プレミアム3円の「プットオプション」の売りを行った場合の合成損益を考えます。
為替レートが行使価格(1ドル=120円)よりドル安なら、ショートプットが行使されて為替損が発生します。この時、ロングコールは放棄しています。損益線は、相場が1円下落するごとに為替損も1円ずつ増加する左下がり斜め45度の直線となります。ロングコールの損益(支払プレミアム3円分)を合算すると、ショートプットの損益線を支払プレミアム3円分だけ下方へ押し下げる形となります。
一方、1ドル=120円よりドル高なら、ロングコールが行使できるので為替益が発生します。この時、ショートプットは放棄されています。損益線は、相場が1円上昇するごとに為替益も1円ずつ増加する右上がり斜め45度の直線となります。ショートプットの損益(受取プレミアム3円分)を合算すると、ロングコールの損益線を受取プレミアム3円分だけ上方へ押し下げる形となります。その結果、合成された損益線は、1ドル=120円で先物予約を行うロングの損益線となります。
合成ショートのポジションは、同じ行使価格のロングプットとショートコールを合成したものです。
行使価格1ドル=120円、プレミアム3円の「プットオプションの買い」と、行使価格1ドル=120円、プレミアム3円の「コールオプション」の売りを行った場合の合成損益を考えます。
為替レートが行使価格(1ドル=120円)よりドル安なら、ロングプットが行使できるので為替益が発生します。この時、ショートコールは放棄されます。損益線は、相場が1円下落するごとに為替益は1円ずつ増加する左上がり斜め45度の直線となります。ショートコールの損益(受取プレミアム3円分)を合算すると、ロングプットの損益線を受取プレミアム3円分だけ上方へ押し上げる形となります。
一方、1ドル=120円よりドル高なら、ショートコールが行使されて為替損が発生します。この時、ロングプットは放棄されています。損益線は、相場が1円上昇するごとに為替損も1円ずつ増加する右下がり斜め45度の直線となります。ロングプットの損益(支払プレミアム3円分)を合算すると、ショートコールの損益線を支払プレミアム3円分だけ下方へ押し下げる形となります。その結果、合成された損益線は、1ドル=120円で先物予約を行うショートの損益線となります。
合成ロングと合成ショートは裁定取引に利用することができます。現物のショート取引と合成ロングの組み合わせ、あるいは、現物のロング取引と合成ショートの組み合わせにより、損益を確定させることができます。この場合の損益図は、スクエアと同じになります。
まとめ
損益図
他オプションを行使し現物市場での反対取引を行った場合の損益状態を一目でわかるようにグラフ化したもの。
満期日の市場レートを横軸に、損益を縦軸にとったグラフ。
オプションの損益図は、行使価格を中心に3点の損益を結ぶと損益線を描くことができる。
オプションの損益図
コールの売り、コールの買い、プットの売り、プットの買いの4つのパターンと、ロングポジションとショートポジションの損益図が基本。
合成損益図
損益図の損益を縦に足し合わせることで描くことができる。
問題と解答
- 損益図は、横軸に決済日の市場価格を、縦軸に●●を目盛りにとったグラフです。●●価格を中心に3点の損益を求めてグラフ上にとり、直線で結ぶと損益図ができ上がります。
- 金融商品の売買の結果生じる債権や債務の取引残高である●●ションは、金融商品を「買っている状態」、あるいは、「売っている状態」です。金融商品を買っている状態を買い持ち(ロングポジション)、売っている状態を●●持ち(ショートポジション)と呼んでいます。
- オプション損益の基本型には、コールの売り、コールの買い、●●●の売り、プットの買いの4つのパターンがあります。これに●●●ポジションとショートポジションを加えると、あらゆる複合パターンを合成することができます。
- ロングコールは、●●●オプションを買い持ちにしている場合の損益図です。ショートコールは、コールオプションを●●持ちにしている場合の損益図です。
- ロングプットは、●●●オプションを買い持ちにしている場合の損益図です。ショートプットは、プットオプションを●●持ちにしている場合の損益図です。
- オプションや現物のポジションが組み合わされた場合の損益図を●●損益図といいます。オプションの合成損益は、個々のオプションやポジションの●●を足し合わせることで計算できます。
- 合成コールの買いポジションは、ロング●●●と現物の買い持ちポジションを合成したものです。合成プットの買いポジションは、ロング●●●と現物の売り持ちポジションを合成したものです。
- 合成コールの売りポジションは、ショートプットと現物の●●持ちポジションを合成したものです。合成プットの売りポジションは、ショートコールと現物の●●持ちポジションを合成したものです。
- 合成●●●のポジションは、同じ行使価格のロングコールとショートプットを合成したものです。合成ショートのポジションは、同じ行使価格のロング●●●とショートコールを合成したものです。
- 合成ロングと合成ショートを利用すると、●●取引を行うことができます。現物のショートと合成ロング、あるいは、現物のロングと合成ショートの組み合わせにより、●●を確定させる取引が可能となります。この場合の損益図は、スクエアーと同じになります。
(答え)損益、行使
(答え)ポジ、売り
(答え)プット、ロング
(答え)コール、売り
(答え)プット、売り
(答え)合成、損益
(答え)プット、コール
(答え)売り、買い
(答え)ロング、プット
(答え)裁定、損益