オプション取引入門講座 第4回 オプション市場
講師:有馬秀次
1.オプションの取引形態
≪上場市場と店頭市場≫
オプションが取引される市場には、取引所に上場して取引される上場市場と、個別に相対ベースで取引される店頭市場があります。
◆上場市場
上場市場は、取引所で行われる取引所取引で、取引が定型化されているのが特徴です。取引所を相手として取引を行うため、取引相手の信用力を心配する必要がなく、取引が取引所に集中するため、決済の安全性や取引の流動性がきわめて高いのが利点です。
その反面、取引を確実なものにするために証拠金制度があり、取引の管理や事務手続きが煩雑であるという欠点があります。
◆店頭市場
店頭市場は、銀行間や、銀行と顧客が相対(あいたい)で取引を行う市場です。金額や契約期間等の取引条件を相対で自由に決められ、証拠金がいらないなど、取引に柔軟性があるのが利点です。その反面、取引相手の信用力が問題となるなど、決済の安全性や取引の流動性では上場市場よりやや劣るという欠点があります。
上場市場と店頭市場は、競合する市場というよりは、むしろ、互いに補完しあう関係にあります。
≪現物オプションと先物オプション≫
オプションには、現物市場を対象にした現物オプションと、先物市場を対象にした先物オプションがあります。
現物オプションは、決済に現物が利用されるのに対し、先物オプションは、決済に先物が利用されます。先物オプションは、オプションが行使された場合に先物のポジションに振り替えられ、先物市場で決済される取引です。
店頭市場には先物取引はないため、現物オプションしかありません。一方、上場市場では現物オプションと先物オプションの両方が取引されています。
2.オプション商品の種類
オプションの対象商品のことを、原資産(げんしさん)といいます。原資産の数だけ、オプションも種類があります。オプションの種類は、商品の分類による区別、市場の形態、商品の形態により分類することができます。
≪金融オプション取引≫
オプション取引は、農作物、家畜、貴金属に至るまで、幅広い商品を対象にして行われています。このうち、金融商品を対象にするオプションを金融オプション取引と呼んでいます。
金融オプション取引は、個別株式、指数、金利、通貨等の金融商品を対象にしたオプション取引の総称で、大きく3つに分類することができます。株式を対象にする株式オプション、金利を対象にする金利オプション、通貨を対象にする通貨オプションの3つです。
◆株式オプション
株式オプションは、さらに個別銘柄を対象にする株券オプションと、株価指数を対象にする株価指数オプションに分けることができます。
◆金利オプション
金利オプションは、短期金利を対象にする短期金利オプションと、長期金利を対象にする債券オプションやスワップションに分けられます。短期金利を対象にする取引には、ユーロドル預金や、短期財務省証券等のオプション取引があります。一方、長期金利の取引には、長期国債等の債券を対象にした米国のT-BONDやT-NOTE等のオプションやスワップションが知られています。
◆通貨オプション
通貨オプションは、為替のオプション取引で、ドルと円の交換といった為替取引を対象とするオプション取引です。
3.日本のオプション市場
≪店頭オプション≫
店頭取引である通貨オプションは、銀行間で取引を行う、取引量が最も多いオプションです。
日本のオプション取引は、通貨オプションから始まりました。1984年4月に実需原則の廃止がなされて以降、米系の外銀及び都銀から相対ベースでの取引がスタートしました。当初は、市場と言えるほどの規模ではありませんでしたが、1987年以降、邦銀も通貨オプションを組み込んだ預金・貸付案件への本格的な取り組みが始まり、通貨オプション市場は急速に発展しました。
≪取引所オプション≫
日本の取引所には、銀行が設立した東京金融先物取引所と、証券会社が設立した証券取引所(東京証券取引所、大阪証券取引所など)があります。
◆東京金融先物取引所
東京金融先物取引所では、短期金利を原資産とするユーロ円3ヶ月先物オプションが取引されています。
◆証券取引所
証券取引所では、国債先物、株価指数、個別株式を原資産とするオプションが取引されています。国債先物オプションは、長期国債先物や中期国債先物を対象とする取引です。株価指数オプションは、株価指数を基礎商品とする取引です。株券オプションは、あらかじめ決められた個別銘柄の取引です。
4.インディケーション(価格提示)
「インディケーション」とは、価格提示という意味で相場気配の提示のことです。「クォーテーション」も、同様の意味に使われています。
上場市場と店頭市場では、価格の提示方法が異なります。上場市場ではオプション価格(プレミアム)そのもので取引されますが、店頭市場ではボラティリティ(予想変動率)の水準で取引されます。
≪店頭市場≫
店頭市場における銀行間取引では、ボラティリティ(予想変動率)を提示して、取引を行います。
オプション価格は、原資産価格の将来の値で決まってきます。つまり、どれくらい原資産が変動するかで決まります。この原資産価格の変動(ぶれ)の平均値をボラティリティと呼んでいます。
オプション価格を決める際に唯一の未知数となっているのがボラティリティです。ボラティリティが決まれば、他の取引条件(行使価格や有効期間)を計算式に入れることによって、オプション価格を確定させることができます。
OTC市場(店頭取引市場)では、取引条件が定型化されていないため、ボラティリティ水準で取引の採算を確定させたのちに、取引の詳細を決めることにしています。
◆ボラティリティ
ボラティリティは、原資産価格の変動(ぶれ)の平均値です。オプション契約は、将来の契約ですから、利用する変動率も将来の変動率が必要です。これをインプライド・ボラティリティ(予想変動率)と呼んでいます。
この予想変動率に対し、過去の原資産の変化率の平均をとったものをヒストリカル・ボラティリティ(歴史的変動率)と呼んでいます。歴史的変動率は、日々の原資産価格の変化率の平均値として計算されるもので、統計学でいう標準偏差(σ-シグマ)にあたります。歴史的変動率は、予想変動率を推測するのに使われています。
参考 : ボラティリティ
≪上場市場≫
上場市場では、オプション価格(プレミアム)を提示して取引を行います。
上場オプションの場合には、定型化された取引に対するオプション価格(プレミアム)は1つに決められます。そのため、ボラティリティ(%)ではなく、オプション価格(金額)そのものを使って取引を行っています。取引交渉に時間がかからないのが利点です。
店頭オプションでは、ボラティリティを計算式に入れてオプション価格を算出しますが、上場オプションでは、オプション価格を計算式に入れてボラティリティを逆算して相場水準を求めることがよく行われています。
まとめ
オプションの取引形態
店頭市場…現物オプションが取引されている。
上場市場…現物オプションと先物オプションが取引されている。
金融オプション
金融商品(個別株式、指数、金利、通貨など)を対象にするオプション。
株式オプション、金利オプション、通貨オプションがある。
インディケーション(価格提示)
上場市場…オプション価格(プレミアム)で取引される。
店頭市場…ボラティリティ(予想変動率)で取引される。
ボラティリティ
ボラティリティ…原資産価格の変動(ぶれ)の平均値。
インプライド・ボラティリティ(予想変動率)…将来の変動率。
ヒストリカル・ボラティリティ(歴史的変動率)…過去の原資産の変化率から計算したぶれの平均値。
問題と解答
- 上場市場は、取引所取引で取引が●●化されています。決済の安全性や取引の流動性が高いという利点があります。その反面、取引を確実なものにするために●●金制度があり、取引の管理や事務手続きが煩雑であるという欠点があります。
- 店頭市場は、銀行間や、銀行と顧客が●●で取引を行う市場です。取引条件を相対で決められ、証拠金がいらないなど、取引に柔軟性があるのが利点です。その反面、決済の安全性や取引の流動性では●●市場よりやや劣るという欠点があります。
- オプションには、現物市場を対象にした現物オプションと、先物市場を対象にした先物オプションがあります。店頭市場では●●オプションが取引され、上場市場では現物オプションと●●オプションの両方が取引されています。
- 金融商品を対象にするオプションを●●オプション取引といいます。金融オプション取引は、株式を対象にする株式オプション、金利を対象にする金利オプション、通貨を対象にする●●オプションの3つに分類することができます。
- 株式オプションには、個別銘柄を対象にする●●オプションと、株価指数を対象にする株価指数オプションがあります。金利オプションには、短期金利を対象にする短期金利オプションと、長期金利を対象にする●●オプションやスワップションがあります。通貨オプション取引は、為替取引を対象とするオプション取引です。
- 日本の取引所には、短期金利を原資産とするユーロ円3ヶ月先物オプションを取引する東京金融●●取引所と、国債先物、株価指数、個別株式を原資産とするオプションを取引する●●取引所があります。
- 店頭市場における銀行間取引では、ボラティリティ(予想●●率)を提示して取引を行います。 オプション価格は、原資産価格の将来の値で決まってきます。この原資産価格の変動(ぶれ)の平均値を●●ティリティと呼んでいます。
- オプション契約は将来の契約なので、利用する変動率も将来の変動率が必要です。これをイン●●イド・ボラティリティ(●●変動率)といいます。
- 過去の原資産の変化率の平均をとったものを●●トリカル・ボラティリティ(●●的変動率)といいます。統計学でいう標準偏差(σ-シグマ)にあたるもので、予想変動率を推測するのに使われています。
- ●●市場では、オプション価格(プレミアム)を提示して取引を行います。定型化された取引に対するオプション価格は1つに決められるため、ボラティリティ(%)ではなく、オプション●●(金額)そのものを使って取引を行っています。
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(答え)金融、通貨
(答え)株券、債券
(答え)先物、証券
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(答え)ヒス、歴史
(答え)上場、価格