金融大学(金融大学講座)

外国為替入門講座 第8回 為替スワップ

1.為替スワップ取引

 

為替取引には、現時点で通貨の交換を行う直物(じきもの)為替と、将来の時点で通貨の交換を行う先物(さきもの)為替があります。

 

為替スワップ

 

直物為替は、手形の買取や海外への送金など、今すぐ外貨と交換する必要がある場合に利用される取引です。
先物為替は、外貨とその対価の受渡しが、将来の特定日に行われることを、現時点で約定する取引です。決済が数ヶ月後に予定されている輸出入取引等に利用されます。

 

外国通貨と円の交換レートは、毎日大きく動いています。将来の時点にドルをいくらで交換できるかを決めておくことは重要です。例えば、原価70万円の自動車を1万ドルで売った場合に、為替レートが決まらないと儲けの判断ができません。
先物為替は、現時点で将来の時点に外貨をいくらで売り買いするのかを決めておくものです。簡単にいえば、予約レートです。

 

直物為替の取引相手は、市場参加者が多いため簡単に見つかります。しかし、先物為替の取引相手は簡単に見つかりません。そこで生まれたのが為替スワップ取引です。

 

 

 

2.為替スワップとは何か

 

為替スワップ取引は、直物為替と先物為替の売買を、同時に交差的に組み合わせて行う取引です。直物為替の売買に、逆の売買条件の先物為替を組み合わせます。

 

例えば、100万ドルの直物為替を買う(または売る)のと同時に、100万ドルの先物為替を売り戻す(または買い戻す)取引を組み合わせたものが為替スワップです。

 

為替スワップ

 

 

 

3.為替スワップと先物レート

 

直物為替に為替スワップを加えると、先物為替を作ることができます。為替スワップは、直物為替と先物為替の橋渡しの役割をしています。
外国為替市場では、先物レートは実数で建て値されるのではなく、直先スプレッドが建て値されています。直先スプレッドとは、直物レートと先物レートの差額で、為替スワップの価格のことです。

 

先物レートは、直物レートに直先スプレッドを加減して算出します。

 

先物レート=直物レート ± 直先スプレッド

 

米国の金利が日本の金利より高い場合には、直物レートから直先スプレッドを差し引くことで、先物レートを計算します。これをドルディスカウント/円プレミアムといいます。

 

(例) 日本の金利がゼロ%、米国の金利が5%の場合には、

 

   先物レート=直物レート-直先スプレッド

 

   と計算されるため、先物レートは、直物レートより安くなります。

 

   直物レートが$1=¥110、直先スプレッドが2円とすると、

 

   先物レート=110-2 と計算されて、$1=108円となります。

 

先物レートは、予約の期間が長くなるほど、$1=¥108や$1=¥105のように、直物レートより安くなっていきます。

 

逆に、米国の金利が日本の金利より低い場合には、直物レートに直先スプレッドを加えて先物レートを計算します。これをドルプレミアム/円ディスカウントといいます。

 

(例) 日本の金利が10%、米国の金利が5%の場合には、

 

   先物レート=直物レート+直先スプレッド

 

   と計算されるため、先物レートは、直物レートより高くなります。

 

   直物レートが$1=¥110、直先スプレッドが2円とすると、

 

   先物レート=110+2 と計算されて、$1=112円となります。

 

先物レートは、予約の期間が長くなるほど、3ヶ月物が$1=¥111、6ヶ月物が$1=¥112というように、直物レートより高くなっていきます。

 

 

 

4.銀行の操作

 

為替スワップ取引は、企業に先物為替を供給する必要がある銀行が、銀行間で行うプロの取引です。この取引のおかげで、銀行は、企業からの先物為替の注文に応じることができます。

 

ある輸出企業から、3ヶ月先に100万ドルを売りたいという先物為替の注文が入ったとします。すると銀行は、直物市場でドルを売り、為替スワップで直物の買いと先物の売りを行います。その結果、先物の売りポジションだけが残ります。
ここでいうポジションとは、債権と債務の差額のことです。ドルの売りとドルの買いを比べて、売りが多い場合を売りポジション、あるいは、売り持ちと呼んでいます。

 

3ヶ月後に輸出企業から買い取ったドルは、この先物の売りポジションで相殺されます。したがって、銀行は為替リスクを負わなくて済みます。

 

為替リスクとは、為替レートが変動することによって、損失を被るかもしれない可能性のことです。例えば、1ドルを100円で手に入れた場合、1ドルの価格が90円に値下がりすると、ドルを円に交換した時に10円の損失を被ってしまいます。円に替えなければ損失は出ませんが、100円の資金がドルに投入されたままで放置されることになります。

 

為替スワップ

 

 

 

5.為替スワップの価格

 

為替スワップには、2種類の取引があります。期近でドルを買い、期先でそれを売る取引と、期近でドルを売り、期先でそれを買う取引です。前者を買い/売りスワップ、後者を売り/買いスワップといいます。
期近とは、現時点に近い手前の期日という意味です。今日、明日、のように現時点に近い期日を指します。期先は、先の期日のことです。
例えば、ドルの買い/売りスワップは、1ドル=100円で直物を買い、期先に1ドル=95円で先物を売り戻すといった取引を指します。

 

直物為替レートと先物為替レートの間の価格差を、直先(じきさき)スプレッドといいます。これを、直先スプレッドの支払側からはスワップコスト、受取側からはスワップマージンと呼びます。
ドルの買い/売りスワップを行うと、直物レート(100円)と先物レート(95円)の差額の5円(100-95=5)を、取引相手に支払ったことになります。

 

直先スプレッドは、交換される2国間の金利差によって決まります。その理由は、お金が自由に行き来できる市場では、どちらの国でお金を運用しても等しくなるように先物レートが調整されていくからです。

 

直先スプレッド=2国間の金利差

 

例えば、日本の金利が5%、米国の金利が10%であると仮定してみましょう。 直物レートは、1ドル=100円とします。

 

日本の銀行から100円を借りてドルと交換して、米国の銀行に預金すると、1年後、1ドル10セントが手に入ります。
もし、先物レートが$1=¥100であった場合、1ドル10セントは、110円と交換されます。銀行から借りた
100円の利子は5円ですから、銀行に105円を返すと手元に5円(110円-105円=5円)の利益が得られます。もし、こんなうまい話があれば、誰もがドルでの運用を始めます。その結果、ドルの売り予約が増えます。ドルの売り手が増えるのですから、先物のドルの値段は下がっていきます。1ドル=95円45銭まで下がると、1ドル10セントは、円と交換しても105円(1.1×95.45=105)にしかならなくなり、ドルで運用しようとする動きが止まります。

 

では、予約レートがもっと下がって1ドル=90円になったらどうなるでしょう。今度は、逆の動きが始まります。米国の銀行から1ドルを借りて日本の銀行に預金する動きです。1ドルを100円に替えて運用すると、1年後、105円になります。1ドル=90円でドルに換算すると、1ドル16セント(105÷90=1.16)になります。銀行には、1ドル10セントを返済すればいいのですから、6セントの儲けとなります。したがって、ドルの買い予約が増えていき、予約レートは上がっていきます。 1ドル=95.45円(105÷1.1=95.45)になると、儲けはゼロとなるのでドルの買い予約をする人もいなくなります。

 

結局、先物レートは、1ドル=95円45銭の水準で落ち着くことになります。
この直先スプレッド4.55円(100-95.45=4.55)は、日米の金利差5%(10-5=5)に相当します。
これは、円で運用しても、ドルで運用しても105円にしかならないように、先物レートが調整されていくことを意味します。円価での運用額とドルでの運用額が等しくなるように、先物レートが調整されていくのです。

 

為替スワップ

 

 

 

6.直先スプレッドの計算

 

直先スプレッドは、先物レートと直物レートとの差額なので、先物レートが決まると簡単に計算できます。先物レートは、円で運用しても、ドルで運用しても運用額が等しくなるような水準で落ち着きます。

 

これを式にすると、 円での運用額=ドルの運用額 となります。
円での元利合計=ドルでの元利合計
¥元本×(1+¥金利×日数÷365)=$元本×(1+$金利×日数÷360) とおけます。
この式を変形すると、

 

為替スワップ

 

ここで$元本=先物レート、¥元本=直物レートとおくと、次のようになります。

 

為替スワップ

 

直物レート(1ドル=¥100)、円金利5%、ドル金利10%のときの1年先の先物レートは、
【 1年後の円での運用額=1年後のドルの運用額 】であるという関係から、
100円×(1+0.05×365÷365)=1ドル×(1+0.1×360÷360)
1ドル=100円×(1+0.05)÷(1+0.1)=95.45円 となります。

 

ところで、直先スプレッド=直物レート-先物レート だから、直先スプレッドの計算式は、次のようになります。

 

為替スワップ

 

◆参考

 

(1)金利ベースは、ユーロ金利では、1年を360日として計算します。国内の手形やCPの計算は、1年を365日で計算します。

 

(2)為替スワップのことを、フォワードスワップ(forward swap)ともいいます。スワップ(swap)は交換するという意味で、直物為替や先物為替などの一方的な売買取引であるアウトライト取引と区別しています。アウトライト取引は、直物や先物の売買を売りなら売り、買いなら買いを単独で行うことをいいます。

 

(3)通貨スワップや金利スワップは、キャッシュ・フロー(資金の流れ)を交換する取引です。為替スワップとは異なる取引で、混同しないことが大切です。

 

 

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まとめ

為替スワップ取引
  直物為替と先物為替の売買を、同時に交差的に組み合わせて行う
  買い/売りスワップ…期近でドルを買い、期先でそれを売る取引
  売り/買いスワップ…期近でドルを売り、期先でそれを買う取引
ドルディスカウント/円プレミアム
  日本の金利が、米国の金利より低い場合
  先物レート=直物レート-直先スプレッド
ドルプレミアム/円ディスカウント
  日本の金利が、米国の金利より高い場合
  先物レート=直物レート+直先スプレッド
直先スプレッド=2国間の金利差

 

 

問題と解答
  1. 為替取引には、現時点で通貨の交換を行う●●為替と、将来の時点で通貨の交換を行う●●為替があります。
  2. (答え)直物、先物

  3. 為替スワップ取引は、●●為替の売買と、逆の売買条件の●●為替を組み合わせた取引です。
  4. (答え)直物、先物

  5. 日本の金利が米国の金利より低い場合、直物レートから直先スプレッドを差し引いて、先物レートを計算します。この状態を●●ディスカウント/●プレミアムといいます。
  6. (答え)ドル、円

  7. 日本の金利が米国の金利より高い場合、直物レートに直先スプレッドを加えて、先物レートを計算します。この状態を●●プレミアム/●ディスカウントといいます。
  8. (答え)ドル、円

  9. ドルの売りとドルの買いを比べて、売りが多い場合を●●ポジションあるいは、●●持ちといいます。
  10. (答え)売り、売り

  11. 期近でドルを買い、期先でそれを売る取引を、●●/売りスワップといいます。期近でドルを売り、期先でそれを買う取引を、●●/買いスワップといいます。
  12. (答え)買い、売り

  13. 直物為替レートと先物為替レートの間の価格差を●●スプレッドといいます。直先スプレッドの支払側からはスワップコスト、受取側からは●●●●マージンと呼びます。
  14. (答え)直先、スワップ

  15. 直先スプレッドとは、直物レートと先物レートの差額で●●スワップの価格です。●●レート=直物レート±直先スプレッドとなります。
  16. (答え)為替、先物

  17. 直先スプレッドは、交換される2国間の●●差によって決まります。●●レートは、円価での運用額と、ドルでの運用額が等しくなるように調整されていきます。
  18. (答え)金利、先物

  19. 為替スワップは、●●●●●スワップともいいます。スワップは交換という意味で、直物や先物の売買を売りなら売り、買いなら買いを単独で行う●●●ライト取引と区別しています。
  20. (答え)フォワード、アウト

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