外国為替入門講座 第2回 貿易と外国為替
講師:有馬秀次
1.外国為替の特徴
外国為替は、外国との取引において、現金を輸送することなく決済する仕組みのことです。外国為替の特徴は、おカネの立替に加えて、他国通貨との交換が生じる点にあります。外国為替の決済には、必ず、2つの通貨が関係しています。
日本で「円」の受払いが起こると、必ず、外国でそれに対応した「外貨」の受け払いが起きています。例えば、東京のAさんがニューヨークのBさんにお金を送る場合、Aさんは、「日本円」を銀行に持っていきますが、Bさんは「米ドル」で受取ります。これは、銀行が通貨の交換をしているからです。この通貨の交換が外国為替の大きな特徴です。
2.外国為替の正体
外国為替の正体は、銀行間の口座振替にあります。為替の決済が口座振替の機能を利用している点は、内国為替と同じです。日本の銀行は、あらかじめ、海外の銀行に預金口座を開設していて、その口座の出し入れで決済を行っています。
例えば、日本のA銀行がニューヨークのB社に100ドルを送金する場合、A銀行は、ニューヨークにあるC銀行に連絡をとります。C銀行にあるA銀行の預金口座から、100ドルを下ろしてB社の口座に入金するように依頼するのです。この口座振替により、実際に現金を送ることなしに送金が行われます。
海外には、日本銀行のような最終決済を行う中央銀行がありませんので、預金口座は、通貨別に各国の銀行に設けられています。例えば、米ドルであればニューヨークに所在する銀行、英ポンドであればロンドンに所在する銀行に口座を開設しています。
海外の銀行との為替取引契約のことを、コルレス契約と呼んでいます。
3.外国為替が必要な理由
外国間のお金の受払いは、以下のような様々な理由で起こっています。
(1)貿易…貿易(輸出、輸入)で商品を売買した場合の代金決済。
(2)送金…企業の本店と海外支店との間で行う送金や、家族の生活費を海外へ送金する親族送金。
(3)国際的な資金貸借…外貨預金や外貨借入金の元本と利息の受払や、海外旅行をする場合の外貨の購入。
4.外国為替の決済方法
外国為替の決済には、(1)商品の「買い手」が「売り手」におカネを送る方法、(2)商品の「売り手」が「買い手」からおカネを取り立てる方法、の2通りの方法があります。
(1)の方法を送金為替あるいは並為替といいます。
海外へお金を送金する、ごく当たり前の方法です。銀行で送金小切手を購入して、これを海外の債権者(売り手)に送ります。債権者は、地元の銀行にその小切手を提示して、その国の通貨でお金を受取ります。言い方を換えると、債務者が銀行から対外債権を購入して、支払いに充てる方法です。
(2)の方法を取立為替あるいは逆為替といいます。
債権者(売り手)が、銀行を通して債務者(買い手)からお金を「取り立てる方法」です。貿易取引の決済には、取立為替が使われています。
5.外国為替手形と貿易取引の決済
貿易の決済手段に使われているものに、「為替手形」があります。為替手形というのは、「売り手(振出人)」が、「買い手(名宛人)」に対して、一定金額を「銀行(受取人)」に支払うことを依頼する証券です。
貿易取引では、遠く海外にいる取引相手と、どのようにして商品とおカネを交換するのかが問題になります。この交換の仲介役をはじめたのが銀行です。銀行が商品(荷物)の引換券を預かり、それと引換えに「買い手」におカネを支払ってもらうことにしたのです。このおカネを取立てる手段に使われたのが外国為替手形です。
東京の輸出業者(売り主)が、ニューヨークの輸入業者(買い主)にカメラを輸出するとします。この時、東京の輸出業者は、カメラを船積みすると、船会社から船荷証券(ふなにしょうけん)をもらいます。船荷証券は、運送荷物の引換証です。これがないと船会社は、輸入業者に荷物を渡しません。
輸出業者は、外国為替手形を振り出し、船積書類(船荷証券、荷物に掛けた保険証書等)を添付して、日本国内の銀行に持ち込みます。船荷証券等の船積書類が添付されている為替手形のことを、荷為替手形といいます。
銀行は、海外のコルレス銀行に荷為替手形を送ります。コルレス銀行は、輸入業者に連絡をとり、船積書類と引換えにおカネを払ってもらいます。おカネは、コルレス銀行にある日本の銀行の勘定に入金されます。そして、輸入業者は、港に行って船会社から荷物を受け取る、という仕組みです。
しかし、この方法では、輸出業者がおカネを受け取るのに、銀行に船荷証券を持ち込んでから2週間以上の時間がかかります。そこで、この荷為替手形を銀行が買い取ることにより、輸出業者の代金回収を早める方法が考えられました。それが、銀行による荷為替手形の買取りです。
荷為替手形を銀行に買い取ってもらうことで、輸出業者は販売代金を直ちに回収できるようになりました。荷為替手形の買取りのことをネゴシエーションと呼んでいます。
荷為替手形の買取りは、船荷証券(荷物の引換証)という物的担保と手形遡及権(てがたそきゅうけん)という人的担保が、取引を安全なものにしています。
※手形遡及権とは、手形の支払人がおカネを支払わなかった場合に、振出人(売り手)におカネの請求ができるという権利です。
しかし、荷為替手形を買取る銀行は、これだけでは安心できません。そこで輸入地の信用ある銀行に、支払いを確約する書状を発行させるようにしました。これが荷為替信用状です。「荷為替手形」に「信用状」が加わることにより、銀行は、安心して荷為替手形の買取りに応じられるようになったのです。
この仕組みは、19世紀後半にイギリスのマーチャントバンカーによって考案されたものだと言われています。この「荷為替手形」と「信用状」を利用するシステムが、貿易を安全な取引にしてくれました。
参考 : 為替用語
◆為替手形(Bill of Exchange)
輸出業者が輸入業者に、お金を指定銀行へ支払うよう指図した手形。輸出業者が手形の振出人、輸入業者が名宛人(支払人)、指定銀行が受取人となります。
◆船荷証券(Bill of Lading)
貨物を表した有価証券。船荷貨物の引換証。
船名、貨物の品名、数量、船積地、陸揚げ港、受取人が記載されている書類です。
◆荷為替信用状(Letter of Credit)
買主(輸入業者)に代わって、輸入地の信用ある銀行が、荷為替手形の支払い/引き受けを確約した書状。
輸入地の銀行の支払保証のようなものですが、銀行保証と違って、買い手に代わって代金の支払いをしてくれる、代金の支払確約書です。
◆船積書類(Shipping Documents)
船荷証券、貨物海上保険証券、送り状(品名、数量、金額、売買条件等の明細書)などの書類。
◆仕向為替(しむけかわせ)と被仕向為替(ひしむけかわせ)
為替の発着点から区分した呼び名。
為替取引を発着点から見た場合を仕向為替、反対の終着点から見た場合を被仕向為替と呼んでいます。外国へ送金をする場合、送る側を仕向送金為替、受け取る側を被仕向送金為替といいます。
◆売為替と買為替(為替の売買を銀行側から考える)
外国為替銀行が顧客に外貨を売渡す場合を「売為替」、逆に銀行が買取る場合を「買為替」といいます。
外国への送金は、顧客が銀行から外貨を買うことですが、銀行から見ると顧客に外貨を売ることになるため、「売為替」と呼びます。逆に外国からの送金は「買為替」となります。
◆ドキュメンタリービルとクリーンビル
ビル(Bill)とは、為替手形のことを意味します。船荷証券等の船積書類が添付されているものをドキュメンタリービル(荷為替手形)、添付されていないものをクリーンビル(信用手形)といいます。
まとめ
外国為替が必要な理由
貿易…貿易で商品を売買した場合の代金決済
送金…企業の本支店間の送金や、家族の生活費の送金などの親族送金
国際的な賃金貸借…外貨預金等の受払や、海外旅行時の外貨の購入
外国為替の決済方法
送金為替(並為替)…買い手が売り手に、お金を送る方法
取立為替(逆為替)…売り手が買い手から、お金を取り立てる方法
ネゴシエーション(荷為替手形の買取り)
輸出業者の代金回収を早める方法
「荷為替手形」と「信用状」を利用するシステム
問題と解答
- ●●為替は、外国との取引において、現金を輸送することなく決済する仕組みです。お金の立替えに加えて、他国通貨との●●が生じる点に特徴があります。
- 海外には最終決済を行う中央銀行がないため、預金口座は通貨別に各国の銀行に設けられています。この海外の銀行との為替取引契約のことを●●●●契約と呼んでいます。
- 外国為替が必要な理由は、●●、送金、国際的な賃金貸借などです。外国とお金の受払いをしなければならない、様々な取引があります。
- 買い手が売り手にお金を送る方法を●●為替(並為替)といい、売り手が買い手からお金を取り立てる方法を●●為替(逆為替)といいます。
- ●●手形は、「売り手(振出人)」が、「買い手(名宛人)」に対して、一定金額を「●●(受取人)」に支払うことを依頼する証券です。
- 海外の取引相手と、商品とお金を交換する仲介役となったのは●●です。銀行は商品の引換券を預かり、それと引換えに買い手にお金を支払ってもらいます。この取立手段に使われたのが、●●●●手形です。
- ●●証券は、運送荷物の引換証です。●●●手形は、為替手形に船荷証券などの船積書類を添付したものです。荷為替手形を銀行に買い取ってもらうことで、輸出業者は販売代金を直ちに回収できるようになりました。これを●●●エーションといいます。
- 荷為替手形の買取りは、●●証券という物的担保と、手形●●権という人的担保が、取引を安全なものにしています。
- ●●●信用状は、輸入地の信用ある●●に、支払を確約してもらう書状です(19世紀後半にマーチャントバンカーによって考案された)。
- 為替取引を発着点から見た場合を●●為替、反対の終着点から見た場合を●●●為替といいます。外国へ送金する場合、送る側を●●送金為替、受け取る側を●●●送金為替といいます。
(答え)外国、交換
(答え)コルレス
(答え)貿易
(答え)送金、取立
(答え)為替、銀行
(答え)銀行、外国為替
(答え)船荷、荷為替、ネゴシ
(答え)船荷、遡及
(答え)荷為替、銀行
(答え)仕向、被仕向、仕向、被仕向