先物取引入門講座 第2回 先渡取引
講師:有馬秀次
1.先渡取引とは何か
先渡取引(さきわたしとりひき)とは、相対で行われる予約取引のことで、英語でフォワード取引といいます。
先渡取引は、将来の時点に、予め定めた価格で、ある商品を売買する約定をするという点では、先物取引と同じです。しかし、先渡取引は店頭取引で現物決済を行いますが、先物取引は取引所取引で差金決済を行うという点で、大きく異なります。
先物取引は差金決済が中心で、商品の受け渡しを行いません。一方、先渡取引は現物決済が原則で、実際に現物の商品の受け渡しを行うため、元本100%分の資金が必要です。
例えば、ある輸入業者が、100万ドルの支払いを3ヶ月後に予定しているとします。ドル相場が3ヵ月後いくらになっているかは誰にもわかりません。そこで、銀行との間で、ある予約をします。輸入業者が、銀行から1ドル=120円という価格で、3ヶ月後に100万ドルを買う契約です。これが為替の先渡取引です。
3ヶ月後に、銀行に1億2千万円(1,000,000×120=120,000,000)を渡して、100万ドルを受け取ります。つまり、この予約を決済するには、1億2千万円(元本100%分)の資金が必要となります。
先渡取引は、相対で行われる取引ですから、取引条件は自由に決められます。取引対象、取引単位、決済期日などに制限はありません。その一方で、決済期日前に反対取引をしようとしても、取引相手を見つけるのがむずかしいという短所があります。先渡取引は、取引の採算を確保したいときに利用されます。
取引が履行(実行)されるかという信用リスクも、取引所取引と比べて大きくなります。取引相手次第で大きく変わってきます。
2.先渡取引と先物取引との違い
先渡取引と先物取引との大きな違いには、(1)取引場所 (2)決済方法 があります。
≪取引場所≫
店頭で取引される相対取引なのか、取引所で取引される上場取引なのか、という点において、先渡取引と先物取引を分類できます。店頭取引なら先渡取引、取引所取引なら先物取引です。
◆先渡取引
先渡取引は、店頭で取引される相対取引です。次のような特徴があります。
(1)取引条件は自由に決められる
(2)流動性に乏しい市場であるため、決済期日前に決済できない
(3)委託証拠金をとらない
※委託証拠金をとらない、ということは、取引が履行(実行)されるかどうかが確実ではなく、信用リスクが高い取引であることを意味しています。
◆先物取引
先物取引は、取引所で取引される上場取引です。次のような特徴があります。
(1)取引条件は定型化されている
(2)流動性の高い市場のため、決済期日前に転売や買い戻しを行って決済できる
(3)証拠金制度により、取引の履行を確保している
≪決済方法≫
実際に商品(資産)を受渡して現物決済するのか、商品を受渡しせずに差金決済するのか、という点における分類です。現物決済なら先渡取引、差金決済なら先物取引です。
◆取引の経済的効果
現物決済か差金決済かという決済方法の違いにより、取引の経済的効果も変わります。
先渡取引では現物(元本100%分)の資金が必要ですが、先物取引では数%の資金で済むからです。先物取引では、少ない資金で大きな取引ができます。これを、レバレッジ効果(てこの原理)と呼んでいます。
ただし、決済方法による分類には、次のような例外があることを承知しておく必要があります。
(1)先物取引にも、現物決済できるシステムがある。
(2)先渡取引にも、FRA(フォワード・レート・アグリーメント)のように、差金決済する取引が出現してきた。
◆先渡取引の例外
先渡取引には、次のような例外があります。
(1)決済方法の例外
従来、店頭取引(相対取引)である先渡取引には、現物決済を行う商品しかありませんでした。しかし、店頭取引の中にも、差金決済を行う商品が出てきました。その代表的なものが、FRA(金利先渡取引)とFXA(為替先渡取引)です。
FRAとは、金利の先渡取引契約のことで、フォワード・レート・アグリーメントの略です。フューチャー・レート・アグリーメントの略として用いられることもあります。
FXAは、為替の先渡取引契約のことで、フォワード・エクスチェンジ・アグリーメントの略です。
(2)呼び方の例外
先渡取引には、為替先物取引(フォワード)という、店頭取引で現物決済を行う商品があります。為替先物と呼ばれていますが、取引所取引ではありません。店頭取引です。
◆用語の注意点
用語の使われ方にも注意が必要です。先渡取引は英語でフォワード・コントラクトといい、先物取引はフューチャーズ・コントラクトといいます。
しかし、日本では、店頭取引である為替予約取引のことを、先物為替予約と呼んできました。これは、当初、取引所で行われる先物取引がなかったためです。間違いやすいので、注意が必要です。そのため、後発の先物取引のことを通貨先物と呼んで、区別しています。
先渡取引と先物取引の違いをまとめると、下表のようになります。
3.先渡取引はデリバティブ取引か
先渡取引は、デリバティブとみなされるのでしょうか?
金融商品会計基準では、差金決済が予定されているものだけをデリバティブとして扱うことにしています。現物の受渡しが決まっている先渡取引は、デリバティブとして扱いません。
差金決済を行う先渡取引はデリバティブであり、現物決済を行う先渡取引はデリバティブではないと判断されています。
この基準では、先渡取引の大半は現物決済を取引条件にしているので、デリバティブではないことになります。しかし、現物決済であっても、市場にいけばいつでも取引相手が見つけられるなら、先物取引と大きな違いはありません。現物決済をすると同時に市場にいって反対売買をすれば、先物取引と同じ経済的効果が得られるからです。
この取引の経済的効果から考えると、市場に行っていつでも反対取引ができるかどうか、という「市場の流動性」を分類の基準にするのも1つの方法だと思われます。
この分類基準によると、流動性が高い市場では反対取引が可能なので、デリバティブとみなします。逆に、流動性が低い市場では取引が成立せず、時価もわかりません。時価がわからない先渡取引は、デリバティブではなく現物取引とみなします。
この場合、例えば、流動性が高い外国為替市場で行われる為替先物予約は、デリバティブとみなすことになりますが、残念ながら、この考え方は、一般に受け入れられているわけではありません。
まとめ
先渡取引と先物取引の違い
先渡取引の例外
FRA(金利先渡取引)…店頭取引なのに、差金決済を行う
FXA(為替先渡取引)…店頭取引なのに、差金決済を行う
為替先物取引(フォワード)…店頭取引なのに、為替先物と呼ばれている
先渡取引はデリバティブか?
金融商品会計基準による分類
・差金決済を行う先渡取引…デリバティブである
・現物決済を行う先渡取引…デリバティブではない
問題と解答
- 先渡取引は店頭取引で●●決済を行います。一方、先物取引は取引所取引で●●決済を行います。
- ●●取引は、現物決済が原則で、現物の商品の受け渡しを行います。そのため、元本 100%分の資金が必要です。
- ●●取引は、相対取引であるため、取引条件は自由に決められます。しかし、決済期日前に反対取引をしようとしても、取引相手を見つけるのがむずかしいという短所があります。
- 先渡取引と先物取引は、店頭で取引される相対取引なら●●取引、取引所で取引される上場取引なら●●取引、と分類できます。
- ●●取引には、(1)店頭取引であるため、取引条件は自由に決められる (2)流動性に乏しい市場であるため、決済期日前に決済できない (3)委託●●金をとらない という特徴があります。
- ●●取引には、(1)取引所取引であるため、取引条件は●●化されている (2)流動性の高い市場のため、決済期日前に転売や買い戻しを行って決済できる (3)証拠金制度により、取引の履行を確保している という特徴があります。
- 先渡取引と先物取引は、実際に商品(資産)を受渡す現物決済なら●●取引、商品を受渡さない差金決済なら●●取引、と分類できます(ただし、例外もあります)。
- 先渡取引では、現物(元本100%分)の資金が必要です。一方、●●取引では、数%の資金で済むため、少ない資金で大きな取引ができます。これを、●●レッジ効果(てこの原理)といいます。
- 先渡取引には、例外として、差金決済を行う商品もあります。その代表的なものが、FRA(●●先渡取引)とFXA(●●先渡取引)です。
- 金融商品会計基準では、差金決済が予定されているものだけをデリバティブとして扱うことにしています。●●決済を行う先渡取引はデリバティブであり、●●決済を行う先渡取引はデリバティブではないと判断されています。
(答え)現物、差金
(答え)先渡
(答え)先渡
(答え)先渡、先物
(答え)先渡、証拠
(答え)先物、定型
(答え)先渡、先物
(答え)先物、レバ
(答え)金利、為替
(答え)差金、現物