株式取引入門講座 第8回 株式相場
講師:有馬秀次
1.相場変動の要因
市場における株式の時価を相場、あるいは、株価と呼んでいます。相場は、さまざまな要因で動きます。この要因を材料といいます。
株価を変動させる材料として、企業収益の変動、配当、増資・株主構成の変化、合併、新製品開発等のニュース、景気動向、金融政策、為替動向、政局などが考えられます。
このうち、会社の業績、配当の変化、新製品のニュースといった自分の会社に関する直接的な要因を個別材料、景気動向や政局のニュースといった間接的な要因を一般材料と呼んでいます。
この材料の分け方として、市場の内部材料と外部材料にわける方法もよく使われています。外人や機関投資家の動向といった市場内の要因を内部材料、景気動向や政局といった市場外の要因を外部材料と呼んでいます。
2.金利・為替と株価の関係
金利や為替の動きは、株価に大きな影響を与えています。金利の変化は、マネーサプライ(世の中のカネ回り)に影響を与えます。
金利が下がると、世の中のカネ回りが良くなり、株価は上がります。金利が下がると、預金や債券の金利が下がり、そこから逃げたお金が株式市場に集まり株価が上がるのです。
逆に金利が上がると、世の中のカネ回りが悪くなり、株価は下がります。金利が上がると、預金や債券の金利が上がり、株式市場から預金や債券へお金が逃げてしまうために株価が下がるのです。
実際には、金利下降への予想で株価が上昇し、金利上昇への予想で株価は下落します。
一方、為替が株式相場にどういう影響を与えるかは、その国の経済構造により異なります。国全体の所得を輸出にたよる輸出主導型の経済と国内需要にもとめる内需主導型の経済では、為替との関係は正反対になります。
円安(ドル高)は、輸出関連企業にプラスに働き、輸入関連企業にはマイナスに働きます。逆に、円高(ドル安)は、輸入関連企業にプラスに働き、輸出関連企業にはマイナスに働きます。
1億ドルの売上(受取り)や仕入れ(支払い)がある企業を例にして考えてみましょう。
為替レートが1ドル=100円では、売上や仕入金額は、100億円となります。ところが、為替レートが1ドル=120円と円安になると、売上や仕入額は120億円に増えてしまいます。
円安(ドル高)は、売上が増える輸出企業にはプラスですが、仕入コストが増える輸入企業にはマイナスに働くのです。逆に、円高(ドル安)は、売上が減少する輸出企業にはマイナスですが、仕入コストが減少する輸入企業にはプラスに働くのです。このため、輸出企業は円安を好感し、輸入企業は円高を好感するわけです。
日本の経済は、1985年頃まで輸出主導型で経済成長を遂げてきました。輸出企業が景気の先導役を担っていたため、為替が円安に向かうと株価が上がり、円高に向かうと株価が下がるという傾向がありました。ところが、1985年に先進5カ国(米国、イギリス、西ドイツ、フランス、日本)は、協調して為替レートをドル安に進めることに合意しました。これをプラザ合意と呼んでいます。
プラザ合意以降、日本では急激な円高が進み、日本経済は不況に陥りました。この不況を脱するために、日本の輸出企業は、売上を国内に移したり、国内生産を海外での現地生産に切り替えたり、部品調達を海外から行うなどの対策をとりました。
その結果、多少の円高は、輸出企業にとって大きなマイナスではなくなりました。一方、輸入企業には、コスト減による増収効果が経営にプラスとなります。国全体でみると、円高は景気へのプラス材料と考えられるようになり始めました。
現在では、円高が予想されると株価の上昇要因に、円安が予想されると株価の下落要因と受け止められています。しかし、行き過ぎた円高は、輸出企業の業績悪化を招くため株価の下落要因となります。為替の水準とともに為替変動のスピードにも注意が必要です。
3.株式の動き
株価の動きを観察すると2つの動きが見られます。一定方向の動きと、上下へ波打つ動きです。この一定方向への動きをトレンドと呼び、上下へ波打つ動きをサイクルと呼んでいます。
トレンドは、長期的に見られる株価の傾向です。その株価の実力をあらわしているとも考えられます。一方、サイクルは、短期的に見られる現象で株価の循環的な動きを指します。
サイクルは、季節的要因や市場のムードから生まれる動きです。
季節的要因というのは、春、夏、秋、冬といった季節がもたらす気候や行事を原因とする材料のことをいいます。例えば、エアコンや冷蔵庫といった家電の売れ行きは、夏場に上がります。季節的要因は、サイクルを予測しやすいため、シーズン前に先取りして買われる傾向があります。季節的要因が会社に与える影響度を見極めることが重要です。
相場は、投資家のセンチメント(市場心理)といったもので大きく動く傾向があります。
新製品開発のニュース等で、その会社の増益が一般投資家に伝わると、投資家の期待が膨らみ、株価が上がりはじめます。最初のうちは、利益が本当に上昇するかどうか疑いを持つ投資家がいるため、株価は何度か調整局面を迎えますが、何かのきっかけで足場が固いという確信が生まれると、一斉にその株が買われるため、会社の実力以上に株価が上がります。逆に、業績不振の噂が流れて市場心理が不安に陥ると、一斉にその株は売られるため、株価は大きく下落します。投資家の思惑が株価の変動を大きくしてしまうのです。
株価のサイクルを分析する場合、センチメントの理由がどこにあるのか、トレンドと乖離(かいり)していないかを見極めることが重要です。
まとめ
株価を変動させる材料
個別材料…自分の会社に関する直接的な要因 (会社の業績、配当の変化、新製品のニュース)
一般材料…間接的な要因(景気動向や政局のニュース)
内部材料…外人や機関投資家の動向といった市場内の要因
外部材料…景気動向や政局といった市場外の要因
金利と株価の関係
金融緩和⇒金利下降⇒企業収益改善⇒株価上昇⇒預金から株式へ
金融引締め⇒金利上昇⇒企業収益悪化⇒株価下落⇒株式から預金へ
為替と株価の関係
輸出主導型 …国全体の所得を輸出にたよる経済
内需主導型 …国全体の所得を国内需要にもとめる経済
円安(ドル高) …輸出関連企業にプラスに働き、輸入関連企業にマイナスに働く
円高(ドル安) …輸入関連企業にプラスに働き、輸出関連企業にマイナスに働く
株式の動き
トレンド…一定方向の動き。長期的に見られる株価の傾向
サイクル…上下へ波打つ動き。短期的に見られる株価の循環的な動き
問題と解答
- 市場における株式の時価を●●、あるいは、株価と呼んでいます。相場を動かす要因を●●といいます。
- 自分の会社に関する直接的な要因を●●材料、間接的な要因を●●材料と呼んでいます。また、外人や機関投資家の動向といった市場内の要因を●●材料、景気動向や政局といった市場外の要因を●●材料と呼んでいます。
- 金利や為替の動きは、●●に大きな影響を与えています。金利の変化は、マネー●●●イ(世の中のカネ回り)に影響を与えます。金利下降への予想で株価が上昇し、金利上昇への予想で株価は下落します。
- 為替が株式相場に与える影響は、その国の経済構造により異なります。国全体の所得を輸出にたよる●●主導型の経済と、国内需要にもとめる●●主導型の経済では、為替との関係は正反対になります。
- ●●(ドル高)は、輸出関連企業にプラスに働き、輸入関連企業にはマイナスに働きます。逆に、●●(ドル安)は、輸入関連企業にプラスに働き、輸出関連企業にはマイナスに働きます。
- 日本経済は、1985年頃まで●●主導型で経済成長を遂げ、為替が円安に向かうと株価が上がり、円高に向かうと株価が下がるという傾向がありました。ところが、1985年の●●●合意で、先進5カ国は共同で為替レートをドル安に進めることに合意しました。
- ●●●合意以降、急激な円高が進み日本経済は不況に陥ったため、日本の輸出企業は、売上を国内に移したり、国内生産を海外での現地生産に切り替えたりといった対策をとりました。その結果、多少の●●は、輸出企業にとって大きなマイナスではなくなりました。
- 輸入企業には、コスト減による増収効果が経営にプラスとなり、国全体でみると、円高は景気へのプラス材料と考えられるようになりました。現在では、●●が予想されると、株価の上昇要因に、●●が予想されると株価の下落要因と受け止められています。
- 一定方向の動き「●●ンド」は、長期的に見られる株価の傾向で、株価の実力をあらわしているとも考えられます。上下へ波打つ動き「●●クル」は、短期的に見られる現象で、株価の循環的な動きを指し、季節的要因や市場のムードから生まれます。
- 相場は、投資家の●●●メント(市場心理)で大きく動く傾向があるため、株価のサイクルを分析する場合、センチメントの理由がどこにあるのか、●●ンドと乖離(かいり)していないかを見極めることが重要です。
(答え)相場、材料
(答え)個別、一般、内部、外部
(答え)株価、サプラ
(答え)輸出、内需
(答え)円安、円高
(答え)輸出、プラザ
(答え)プラザ、円高
(答え)円高、円安
(答え)トレ、サイ
(答え)センチ、トレ